世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
ユーラシア陸上輸送ルートの進展と課題
(福井県立大学 教授)
2017.08.07
今年の4月10日にイギリスから出発して,英仏海峡トンネルを貫いて,フランス,ベルギー,ドイツ,ポーランド,ベラルーシ,ロシア,カザフスタンを経由して,27日に1万2000キロ離れた中国の義烏に到着した「中欧班列」のニュースはユーラシア陸上輸送ルートの新たな進展として,中国の新聞各紙で大きく報じられた。肝心なのはその陸上輸送ルートにより,ユーラシア大陸の連結を宣言する意味合いが大きいことである。
「中欧班列」(CHINA RAILWAY Express:CR express)とは中国・欧州間の定期的国際コンテナ一貫輸送貨物列車のことである。1997年に江蘇省の連雲港港の開港により,中国新疆の阿拉山口,カザフスタン経由でモスクワに至る「チャイナ・ランドブリッジ」が開通したが,現在の「中欧班列」は中国から,内モンゴルの「満州里税関」(東ルート),「二連浩特税関」(中ルート),新疆ウイグル自治区の「阿拉山口税関」(西ルート)など三つのルートで,シベリア・ランドブリッジとチャイナ・ランドブリッジを経由して,欧州各国にいたっており,輸送距離は1万2000キロメートル,輸送期間は15日間前後である。中国の関係部門によると,その最大のメリットは輸送期間は海上輸送より短く,輸送料金は空輸より安いとされている。
また,中国「国家鉄道総公司」の発表によると,この「中欧班列」は2011年3月19日に「中国・重慶〜ドイツ・デュイスブルク」の開業から始まったが,2016年には,中国国内の28の都市と沿線の11ヶ国の29の都市の間に51本の国際定期貨物路線(1日9便)が開業し,計1702便に急拡大した。その中の1034便は中国各地域からドイツ向けの便である。
今後,この「中欧班列」を一層拡大するために,2016年10月より中国国家鉄道省は「中欧班列建設発展計画(2016〜2020年)」を実施し,2020年に向けて,国内では主要都市をカバーする「中欧鉄道網集荷ステーション」を設置すると同時に,沿海港湾を活用して,国際海陸一貫輸送を拡大し,2020年には年間5000便の運行を目指している。
しかし,経済の面から見れば,現在の時点では,この陸上鉄道輸送は海上輸送と比べ,輸送期間の面でも輸送料金の面でも顕著な優位を持っていないのは事実である。例えば,いま,中国の深圳からドイツのデュイスブルクまでの海上輸送期間は24日間,料金は1TEUあたり1300ドルに対して,この「中欧班列」の輸送期間は終着点により違うが,平均では15〜18日間で,料金は3900ドルかかる。また,陸上輸送の拡大と海陸一貫輸送のため,関連施設の建設や鉄道の改造も必要だとされている。
これらの問題を解決するためには2017年5月に「中欧班列輸送協調委員会」を立ち上げ,1日走行1300キロという目標を目指して,輸送網や物流施設の整備,輸送新技術の開発,通関手続きの簡素化などを通じて,輸送期間の短縮,コストの削減,品質の向上に取組んでいるが,完全にその目標を実現するには相当時間がかかるとみられている。こういう意味では,「中欧班列」はいまの時点では,実際の経済効果というよりも,世界人口の7割を占めるユーラシア大陸における物理的連結性の強化,心理的距離の短縮及びそれによるユーラシア時代の幕開けを象徴する意味合いが大きいといえよう。
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