世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
「一帯一路」とFTA
2017.07.31
「一帯一路」国際協力サミット(「一带一路国际合作高峰论坛」)が2017年5月14日から15日まで中国・北京で開かれた。今年3月に中国が運営をしはじめた「一帯一路」国際協力サミット網(以下「一帯一路」サイトと略)発表の資料によると,世界の130カ国と70の国際組織から代表が集まった。とりわけロシアのプーチン大統領をはじめ,29カ国からは国家元首や政府首脳が参加した。日本と米国は中国の「一帯一路」構想に慎重な姿勢を示してきたが,両国とも代表団を派遣している(しかし,両国とも政府首脳の参加ではない)。
「一帯一路」は中国と欧州を結ぶ巨大な経済圏の構想であり,陸路では「シルクロード経済ベルト」(「丝绸之路经济带」)を「一帯」として,海路では「21世紀海上のシルクロード」(「21世纪海上丝绸之路」)を「一路」として,各国と協力し共同で巨大な経済圏を創ることを目指している。
「一帯一路」サイトは,同構想での国際協力の仕組みについて,①二国間の協力を強化し,マルチレベル,マルチチャンネルの疎通を展開し議論すること,②既存の多国間協力のメカニズムの役割を発揮すること,③沿線の各プラットフォームの建設的な役割を発揮すること,としている。
同サイト内の習近平主席の国際協力サミットでの基調演説をみると,「一帯一路」のための協力は,その主な内容として「5つのつながり(「五通」)」を取り上げている。すなわち「政策の疎通」(「政策沟通」),「施設のつながり」(「设施联通」),「貿易の円滑化」(「贸易畅通」),「資金調達」(「资金融通」),「民心の相通」(「民心相通」)である。特に「貿易の円滑化」では,中国と「一帯一路」の参加国との間で貿易と投資の円滑化を推進し,ビジネス環境を絶えず改善するとしている。習主席は,貿易は経済成長の重要なエンジンであり,多角的貿易体制を守り,自由貿易区の建設を推進し,貿易と投資の自由化を促進するとした上で,発展のバランスが崩れかねないことに留意し,デジタルデバイド・分配の格差などの問題を解決し,オープン・包容・包摂・平等・共に勝つグローバル経済をつくるという。
インフラと港の建設への投資を資金面で支えるために,中国政府は中央銀行である中国人民銀行の傘下に,2014年12月に投資ファンド「シルクロード基金」を設立し,またアジア向けの国際金融機関であるアジアインフラ投資銀行(AIIB)が2015年12月に設立された。
「一帯一路」により,中国のFTAの交渉が加速することも予測される。2017年7月現在,中国は15のFTAを締結しているが,その中で「一帯一路」が提起された2013年以降締結されたFTAは,2013年4月のアイスランドとのFTA,同年7月のスイスとのFTA,2015年6月の中韓FTAと中国―オーストラリアFTA,2017年5月のグルジアとのFTAの計5つである。また,上のサミットに参加した29カ国の首脳の中で,FTA締結国から10カ国,FTA交渉国から1カ国,FTA検討中の国から1カ国,その他から17カ国が参加しており,FTAと関係がある国が目立つ。
ASEAN諸国は中国の一帯一路構想を巡って,警戒しながらも基本的には歓迎ムードである。たとえばカンボジアは中国からインフラ関連で多額の経済支援を受けている。そのため,中国が提唱する一体一路を歓迎している。一方フィリピンは南シナ海の領有権をめぐり政治的には中国をネガティブに評価している。しかし経済的には,開発援助資金を中国から提案され,国内の関連産業団体などミクロ的主体の影響により,政治をいわば棚上げにし,中国との経済面の関係性構築には前向きである。ベトナムは中国に隣接するため,政治的に中国と緊張関係に置かれやすい。しかしフィリピンと同様,一帯一路に関しては経済的なメリットゆえに歓迎している。
日本は中国との間では2013年から日中韓FTAの交渉がすでに進行中ではあるが,交渉の進展の遅延が指摘されている。またTPPは周知のとおり米国の離脱表明により米国以外の11カ国での締結が模索されている。2017年はASEAN設立50周年の節目にあたるため,ASEANと日本,中国,韓国,インド,オーストラリアおよびニュージーランドの16カ国をメンバーとするRCEP(東アジア地域包括的経済連携)の進展も注目されている。東アジアにおけるFTAの動きは,中国の一帯一路を求心力として加速しているが,それに先駆けて日本は日中韓FTA,TPPおよびRCEPの3つの広域FTAのいずれにも属する交渉参加国として求心力を発揮してきている。中国と日本それぞれの求心力が良い意味での「競争効果」となって,米国に起因する保護主義が台頭する中において,貿易投資の自由化が加速していくことを期待したい。
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