世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
再生可能エネルギーの導入計画
(東京国際大学 教授)
2017.07.03
今年は,3年に一度の長期エネルギー需給見通しの改定を始める年であり,日本の電力供給の方向性を考える議論が必要となっている。
再生可能エネルギーの導入促進を目指す固定価格買取(FIT)制度が,2012年7月から導入されてきており,太陽光発電ではこのFIT制度の成果が出て,2016年の太陽光発電の発電量の実績が世界3位となる躍進を遂げることができた。
ただし,再生可能エネルギーのうち,導入が容易である太陽光発電のみの設置が進み,設備認定を受けた量で見ると,FIT制度の下での再生可能エネルギーの導入量の9割超を太陽光発電が占めるという集中が生じた。他の再生可能エネルギーの導入は極めて少ない。20年間の固定価格で発電電力量を買取るという極めて優遇された制度を設定したために,新規事業者も太陽光発電に多数参入する結果となった。ただし,太陽光発電に関しては,2012年のFIT導入開始時と比べ,半額へという新規の買取価格の引き下げが,その後行なわれたために,今後の導入量は大幅に減る見込みである。
現在,導入申請のブームとなっているのはバイオマス発電である。申請量は400万kW(2016年12月現在)で,年度末に向けて更に急増したと見られる(年度末の数値は2017年6月現在で未発表)。木質のバイオマスを主な燃料として発電するシステムであり,日本の森林の国土面積に占める比率が68%であることから(2015年),林業の活性化,市町村における地域おこしの一環としても有益であると考えられてきた。
ただし,国内からのバイオマス供給ではなく海外からの輸入バイオマスを用いた発電の導入が現在,主流となってしまっており,大型のバイオマス発電所が,海沿いの地域に立地するケースが増大している。燃料は,インドネシアおよびマレーシアからのヤシ殻(PKSと呼ばれる)と輸入木材(特にカナダ材が多い)に大きく依存している。
FIT制度を導入した趣旨は,国内の森林の活用を図る制度のはずであったが,残念ながら,輸入バイオマスを燃やすという,国内の林業の振興に貢献しない案件が増えてしまっている。遠路,バイオマスを輸送してくると輸送エネルギーも必要であり,制度内容の再検討が必要である。
FIT制度により固定価格での電力買取が毎年積み重ねられる形で行われることから,電力需要者である消費者が支払う「固定価格買取賦課金」が,年々,増大している。賦課金は,2017年ですでに日本全体で年間2.7兆円に達すると見積もられており,標準家庭(家族4人)で月700円を超えており,月平均5千円程度の電気代の1割を超えており,電力消費者の負担感も高まりつつある。
こうして政府は,今後,FIT買入価格の大幅な引き下げを行わざるを得なくなっており,いよいよ課題となるのは,FIT制度の高額の買取がなくても再生可能エネルギーがどこまで導入できるかである。
再生可能エネルギーにはそれぞれ特徴があり,風力発電であれば風速の3乗に比例して発電量が増大するという特徴がある。平均7メートルを超える風が常時吹く地点が風力発電の設置のためには望ましく,国内のこうした有利な地点を探しながら設置を進めていく必要がある。ただし,風力発電の設置に適した地点は,居住するには適しておらず,農業にも向かない場所であり,居住者も少なく,道路の整備も十分でなく,送電線も通じていない場所であることが多い。送電線の敷設は一般に1kmで1億円を要すると見積もられており,たいへん高額な設備である。このように風力発電の設置に制約条件がある以上,送電線の着実な設置を10年,20年とかけて進めつつ,風力発電の導入を着実に進めていく必要がある。
地熱発電に関しては,日本は世界3大地熱大国と言われており,今後も導入余地は大きい。ただし,課題となるのは地熱発電の適地が国立公園・国定公園等の自然公園内に立地する設備が殆どであり,自然環境に調和させるために多額の費用が必要となる。今後も,時間をかけて着実に地熱発電の設置場所を増やしていくしか手はない。
世界と比較しても日本の場合は地震対策など,設備の価格が高価になるのは避けられない事情がある。土地代がかからないような中東の砂漠地帯などと比べて,太陽光発電の設備設置コストが高くなることは仕方がない面がある。高コストであれば,石炭・天然ガス等の化石燃料を用いた発電と比べて,再生可能エネルギーの導入が競争力を持たない場合も多くなる。
今後も,再生可能エネルギーの導入においては,あくまで地元雇用の拡大,バイオマスであれば国内の林業地等の地域にお金を落とす仕組み,風力発電であれば日本企業の競争力強化策も組み合わせた形での導入促進が目指されるべきである。バイオマス発電のように,輸入燃料に依存した発電設備が急増している状況は,早急に,制度見直しによりブレーキをかける必要がある。
- 筆 者 :武石礼司
- 地 域 :日本
- 分 野 :資源・エネルギー・環境
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