世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.831

論理性を欠くトランプ政権の通商政策

中條誠一

(中央大学経済学部 教授)

2017.04.24

 前回のインパクト(2017.1.16)で,トランプ政権のTPP離脱を取り上げ,それは通貨面も考慮すると,むしろアメリカ・ファーストにそぐわないことを強調した。今回は,アメリカの経常収支赤字への対応について考えてみたい。トランプ政権の通商政策の発想の原点は,国内の生産および雇用の拡大にあり,そのための政策を極めて短絡的に考えているところに問題がある。アメリカの赤字が大きい相手国を名指しし,不公正貿易だとして制裁関税も辞さない姿勢を示している。しかし,むしろアメリカこそ不公正であるし,効果も期待しにくい。赤字の本質を見極め,正道を行く対応を強く求めたい。

論理的正当性が薄い経常収支赤字対策

 トランプ政権は自国の生産,雇用の拡大という観点から経常収支赤字の削減を目指しているが,世界的観点からもそれは重要な課題である。ドルという基軸通貨の発行国が巨額の経常収支赤字に陥っているため,国際通貨体制,ひいては世界経済が不安定化している中では,その解消は望むところだからである。

 ただし,そのやり方には多くの問題がある。まず第1に,国際収支のバランスというのは赤字国も黒字国もある中で,全体がどうかということが議論の対象であり,特定の相手国をやり玉にあげるというのは本末転倒である。

 第2に,赤字相手国であるということだけで不公正貿易とし,赤字の削減を迫るというのは自らの責務を放棄しており,フェアではない。もちろん,赤字相手国に不当な為替操作,輸出補助金や非関税障壁などがあるのならば,改善を要求すべきであるが,論拠に乏しい決めつけが多すぎる。例えば,巨大な外国為替市場を抱えるが故に,円安誘導などしたくともできない日本が,なぜ為替操作国なのか理解に苦しむ。むしろ,そうした言いがかりを声高にいうトランプ大統領こそ,「口先介入」で為替操作をしており,不公正極まりない。

 第3に,赤字相手国に対する制裁措置も,法的正当性に疑問があるし,効果も不透明である。赤字相手国への制裁関税は明らかにWTO違反であるし,特定の国だけそれを課しても,さほど効果があるとは思われない。国境調整税の本質は貿易政策ではないという議論もあるが,これもWTOで認められるかどうかわからない。それをアメリカ1国が強行すれば効果は期待できるかもしれないが,他国が対抗措置を取った場合は,世界貿易・経済の減退,ひいてはアメリカにもマイナス効果が及ぶ危険性が高い。

アメリカの経常収支赤字は,どうすれば削減できるか

 I-Sバランス論(経常収支=貯蓄‐投資+財政収支)に則っていえば,アメリカの経常収支赤字は,国民の消費が過剰であるために,国内の貯蓄では投資や財政赤字を賄えないということと裏腹の現象として起きている。もう少し現実的にいうならば,過剰消費で需要面から景気が刺激されても,国内生産能力が追い付かず,多くを輸入に頼らざるを得ず,輸出競争力が十分でないため輸出も伸びない。結果は,景気は悪くないのに,生産,雇用は拡大せず,経常収支は赤字というのがアメリカ経済の姿に他ならない。

 この解消には,自らの経済構造の転換以外あり得ない。まず,国民が贅沢な生活を抑制し,貯蓄をすることを奨励しなければならない。しかし,そうなるとアメリカ経済の中核をなす消費が減少し,景気が悪化してしまう。そこで,貯蓄増加分を国内の投資,とりわけ輸出産業への投資に向けさせるならば,アメリカの抱える問題は一挙に解消できる。今のように消費ではなく,投資と輸出をリード役とした景気拡大ならば,国内生産,雇用,経常収支ともに改善できるからである。赤字相手国からの輸入をやり玉にあげるのでなく,自らの経済構造を転換するという正道を歩むことを切に望みたい。

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