世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
リアル小売と越境EC,ひとつの可能性
(関東学院大学経営学部 教授)
2017.04.17
2017年3月,広島市立大学国際学部在任中の最後の仕事のひとつとして,学生たちと上海に行ってきた。6年前から行われている広島県補助事業「グローバル人材育成」の一環である。第1次事業の3年間は安田女子大学現代ビジネス学部が,第2次の一昨年からは広島修道大学商学部が主管で,連携大学としてプログラムに参画してきた。今回は「グローバル人材育成と地域企業」をテーマに,とりわけ食関連地域企業の国際競争力の確保・展開を視座に講座を進め,今年は,最後に上海高島屋で開催された「四国・中国地方物産展」での広島ブランド産品販売会をもって集大成とした。
学生たちは,中国上海の小売現場で,単に広島ブランド産品をPRし,販売していくというだけでなく,その背後にある日本文化の紹介等を組み入れながら,ストーリー性をもたせて,かつ現地消費者の好みや嗜好に応じ,現地販売員のアドバイスで修正を加えながら,中国上海の人びとにアピールをしていった。
学生たちにとっては,中国の人びとが思いのほか日本の食品や文化に関心をもっていたこと,また自分たちが考えてきた方法の軸を変えるのではなく,ちょっとした工夫等の調整によって成果・販売につなげることができたことなど,大きな発見に近い学びがあったようだ。まさに机上学習と実務体験の融合ないし協働であった。
上海では,大学院で教えた卒業生とも会えた。彼は,2003年9月修了後,日本で就職,その後起業,そしてソフトバンクを経て中国に戻りアリババに転職,さらに中国の大手物流会社SF Expressに移り,現在,その子会社,豊趣海淘(独立系越境EC)のCEOの任についている。
話していて興味深かったのは,豊趣海淘のビジネスモデルであった。その根幹には,中国でも周辺の人びとに世界の良いもの,ストーリーをもった製品を届けたいという想いがあり,かつ周辺にあるリアル小売と協働できる仕組みを目指したいという彼の考え,理想があった。
越境ECについて,彼は,亀型とタコ型とに峻別して説明していた。
亀型は,モール型の越境ECで,モールに企業を呼び込み,そこに顧客を呼び寄せるタイプである。片方でB2Bを,他方でB2Cをやって行く必要がある。顧客は,モールに入り,品物を検索し,購買へと進んでいく。このモデルだと,出展企業は結果として,人気のある大手企業に集約していく可能性がある。手堅い店舗ではあるが,場合によれば,時間の推移とともに鈍い時代遅れとなっていく可能性もある。
目指したいのは,タコ型であると彼はいう。タコは頭と手足が8本あり,柔軟性があるというイメージである。彼の考えは,周辺にある地元のリアル小売店舗にその地域の人びとは日常足を運んで買い物をするが,そこに欲しい品物がなければ,その店舗経由で越境ECを活用し,商品を手に入れることはできないか,その場を提供したいというものである。地元の顧客の購買行動と地元のお店の品揃えを一致させる役割を彼の会社が果たそうと考えている。商品の供給先も,最終顧客との接点である小売店も,こだわりのある会社やお店,ストーリーのあるメーカーなど中小企業に重心をおいているようだ。基本的には,B2Bのチャネル構築である。
この際に重要なことは,オフラインのパートナーをいかに選別,獲得するかである。それには,親会社SF Expressの資源を活用している。日々の物流活動のなかで何処の店がいいのかを把握している。売買の相手というよりは,長く深い関係になれる相手を見つけやすい。地元で信用のある相手なら,信用ある顧客を多く持っている。四川省,山東省,福建省,浙江省などのローカルの信用度が高く身近な小売店等,1000店舗余りを通じて,欧米,日本,韓国,豪州などの商品を提供している。こうした方法は,中国における周辺問題,地域活性化にもつながるし,中小企業,ローカルが生き残り,それぞれに元気が生まれるモデルになりそうだ。
学生たちの上海での小売経験,そして中国での越境ECのひとつの方法,それぞれに顧客の「現実」が反映されている。これらは,小さな現実を見つめ,考え,そこから顧客側,供給側,また仲介側どれかに偏ることなく,全体のつながりのなかで,ベターな方法を見つけ出すことの必要性をあらためて教えてくれているように思えた。3月の上海は,そのひとこまであった。
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