世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.817

米国の「攻撃的ポピュリズム」と「経済民主主義」(No.2)

平田 潤

(桜美林大学大学院 教授)

2017.03.27

 拙稿No.1(2017年3月20日掲載,No.:813)では,米大統領選で「攻撃的ポピュリズム」に乗ったトランプ旋風が勝利を収めた根源的背景の一つとして,「米国で,歴史的に重要な役割を果たしてきた『経済民主主義』の退潮が続き,経済・社会の改革を推進するには力不足」である現状を指摘した。2015年前後に米国で急激に盛り上がったピケティ・シンドロームを見てもこれまで米国の主流派経済学によっては,殆んど正面から採り上げられ無かった「格差問題」や「再分配」について,先進国共通の構造課題として経済学の俎上で議論が繰り広げられた。そしてこれはかえって,(a)米国の所得や資産保有の分布に過剰な偏りと硬直化が進行しており,(b)中産階層の所得伸び悩みと下方への解体現象が進行し,(c)リーマンショック後も改革が捗々しくない実態や,(d)「アメリカンドリーム」が既に行き詰まりつつある現状を,鮮明に浮かび上がらせることとなった。

 筆者はこれまで経済史/経済思想史的な視点から,米国経済について,「経済自由主義」と「経済民主主義」との相互ダイナミズム(仮説)こそが,今日に至る発展を支えた「基本的な二大潮流」であると把握してきた(拙著『アメリカ経済がわかる本-米国経済解体新書-』東洋経済新報社,2012年」)。もちろん建国以来の「経済活動への規制撤廃」「フロンティア追求」「市場の積極的活用」「ベンチャースピリット」等が象徴する,旺盛な「経済自由主義」が米国資本主義のダイナミズム/進化の源泉・原動力であることは申すまでもない。しかしこれまで度々根拠なき熱狂,バブルの膨張,大規模なモラルハザードや犯罪,等が引き起こされ,大恐慌(1929年)を始め,深刻な経済・金融危機が幾度となく生じてきた。こうした事態に対して適切な危機予防や危機管理,改善や解決が自律的に(市場原理や見えざる手を通じて)導びかれたとは到底言い難い。米国の「経済民主主義」とはこうした危機発生や難題に直面し,対処し,是正していく「改革理念」を支える役割を果してきたとみられる。つまり米国の歴史には,「経済自由主義」に拠る急速な経済発展の中で,経済社会に内在/発生する様々な歪みや矛盾,深刻な副作用や負の遺産発生に対して,異議申立てを強く発信し,組織化し,全米的に展開していく様々な運動(「経済民主主義」)が見られた。こうした流れはこれまでも,試行錯誤・紆余曲折・悪戦苦闘による経路を通じて,米国経済における各種の

  • ① 不公正・不公平(unfairness)の是正と,社会・経済問題の改善
  • ② 市場や企業に対する規律・ガバナンス・社会的責任〔CSR〕の追求や立法化
  • ③ 通常の経済主体(消費者や一般投資家)が保有し,行使すべき経済主権の拡大

の実現に成果を挙げ,「経済自由主義」に対するリバランシング効果をもたらしてきた。

 しかしながら,米国経済がレーガノミクスを経て,90年代以降長期繁栄が続く局面では,

  • A.経済のグローバル化により大競争(メガコンペティション)が加速,分業やバリューチェーンが格段に高度化,企業のトランスナショナル化が急進,ICT革命(IOTやAIへの流れを含む)の席捲,イノベーションニーズの恒常化等が,産業構造や雇用構造(及びその安定性),所得環境や労働分配率,セーフティネットの質と量,リスク管理などの面で,抗しがたい大変化と圧倒的影響を与えつつあり,
  • B.これまで「市場経済」の暴走の歯止め役として,モニタリングやチェックで重要な役割を果たしてきた,各種(民・官)専門家集団/組織(「最安価危機回避者」)の実力/権威/機能の相対的低下が進み,「経済民主主義」の負託に耐え得なくなりつつある。こうした機能不全が,米国版バブルの崩壊したエンロン事件やリーマンショックを契機として,顕在化し,
  • C.一方,これまで米国の歴史/伝統の中で「経済民主主義」に関わり,積極的な役割を果してきた諸勢力(政党・団体・労働組合・各種マスメディア・著名/有識者等)が,実質的に分解(既得権益層化,利害集団の代表化,ポリティカル・コレクトネス〔ノミナルな民主主義〕守護者化する等)が進み,普遍的「経済民主主義」の担い手としての信認を喪いつつあり,
  • D.移民層〔不法移民含む〕やマイノリティ層の経済的・政治的プレゼンス急拡大への反発が進行するなどの中で,「経済民主主義」の結集軸は分裂・拡散し,弱体化が進行した。

 こうした中で,米国の「経済民主主義」は,(「女性大統領」としてパイオニアを目指したはずが)既往エスタブリッシュメント政治家の代表視されてしまったヒラリー・クリントン候補による現実的改革路線にはそれほど支持を与えることなく,一方では,より過激な改革に踏み込んでいく「サンダース現象」に吸引され,他方では,不安と不満をエネルギーとし,現状否定的・攻撃的な「経済ポピュリズム」を選択する結果となったと考えられる。

関連記事

平田 潤

国際経済

アングロアメリカ

最新のコラム