世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.816

大震災7回忌を終え3年後の東京五輪に望むこと:被災地東北で競技開催と防災ツーリズムの発信を

山崎恭平

((一財)国際貿易投資研究所 客員研究員)

2017.03.27

 3.11東日本大震災と原発事故から6年が経過し,今年の7回忌では復興の遅れを報告する被災市町村長が多かった。原発事故の福島県浜通りでは,4月からの避難住民の「帰還」を皮切りに「ふるさと回復」が本格化する。復興工事の遅れはいずれ取り戻せるが,原発事故処理は放射能汚染廃棄物バッグが野ざらしで,廃炉の見通しがつかないままである。

 こんな状況下で,3年後には東京五輪・パラリンピック開催を間近に控え,経費見直しや会場整備が急がれている。思えば震災復興の見通しがつかない中で五輪招致が決まり,被災地住民の多くは復興と五輪の大事業を二つも抱えて大丈夫かと心配し,五輪開催には反対していた。その後も熊本地震が起こり,昨年は台風10号被害で岩手県で大きな河川災害があった。増大する復興工事の中での作業の遅れは,何といっても東京五輪特需の影響を大きく受けている。例えば,多くの被災地ではブルドーザーやパワーシャベル等重機やオペレーターが不足し,建材や人件費が高騰して復興の遅れに結果している。また,日常的に五輪の話題が多くなり,最近の震災の風化を加速させていると思う。

 一方で,震災2年後には東北に生まれたプロ野球の楽天球団が日本一を達成,被災地の人々に大きな勇気を与えた。楽天の本拠地仙台での優勝決定戦は,あいにくの雨にもかかわらず観戦者は球場に入りきれず隣設の陸上競技場フィールドにあふれた。そして,現在大リーガーの田中投手が最後を抑えて優勝の瞬間,喜びの大歓声が被災地の夜空に響き渡った。筆者もこの瞬間に居合わせスポーツの偉大なるパワーに感じ入ったが,この頃より被災地でも東京五輪に期待するようになったと思う。アスリートの中には被災地に出向いて元気を与えるボランテイア活動をする人も多く,五輪前年には被災した釜石市を含めラグビーのワールドカップ開催も決まり,スポーツが身近になってきた。

 また,震災直後から国際的な支援が寄せられ,災害関連の国際会議や視察が頻繁に行われるようになった。別けても2年前仙台市で第3回国連防災世界会議が開催され,内外からのべ15万人が出席して仙台宣言をまとめ,東北の復興とBOUSAIを世界に発信する期待が高まった。東日本大震災と原発事故の経験及び復興の知見はBOUSAIとして世界で活かされることになり,被災地ツアーは有力な観光資源になった。アウシュビッツ強制収容所やニューヨークのグラウンド・ゼロ祈念公園は「ダークツーリズム」の誘客資源で,東日本大震災や原発事故地の遺構や記念碑が世界から観光客を呼び寄せることが期待される。今日風にいえば,被災地や遺構を訪問し防災や減災を学ぶ「防災ツーリズム」の可能性が高まり,大震災は稀有で有力な観光資源になったといえよう。

 折から,日本を訪れるインバウンド外国人が昨年は2,000万人を超え,これを2020年には4,000万人,30年には6,000万人に増やそうと政府は「観光立国」を成長戦略に据えた。観光業は関連産業が多く平和時に発展する産業として期待されるから,政府の観光立国への取り組みは遅きに失したきらいがある。また,被災地東北の復興に観光業の振興を図ろうとするのは当然の施策と思われる。

 ただ,相変わらず,復興庁,国土交通省,環境省,スポーツ庁等関係官庁がバラバラに振興策を講じていて,統一性や戦略性が欠けているのは誠に残念だ。目下の緊急課題に最適と目される政策の展開といえば,大震災からの復興と2020年東京五輪・パラリンピックを両立させる戦略的な取り組みになるのではないか。それは,復興五輪を発信することであり,内外からの観光客に防災ツーリズムを呼びかけることであろう。

 既に聖火の被災地巡回が検討され,宮城県でのボート・カヌー競技は無理となったものの,福島県で野球・ソフトの一部実施が予定される。しかし,復興五輪というなら,お茶を濁すような一部実施ではなく,野球やソフトボール,サッカー,ラグビー等球技を中心に他の競技を含め被災地で最大限開催すべきだ。また,観光支援策は「金喰い虫」のハコモノ建設や爆買い支援ではなく,大震災や原発事故の経験を国内外で共有するために,五輪開催を機に被災地ツアーを振興する。内外の観光客のツアー参加は,復興や防災・減災を学ぶまたとない機会になろうし,観光収入は被災地の復興に役立つはずである。

 ツアーの行き先には大震災の遺構がある。震災犠牲者が多い遺構には,当初後世に残すのは犠牲者を思い出し忍び難いと遺族が反対するものの,防災に役立つならばと実現したものが少なくない。東京五輪・パラリンピックの選手や観戦者が被災地ツアーで防災の意義を体感し学んでもらえるなら,貴重なメッセージを発信する歴史的な大会になると思う。

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