世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.764

観光立国に防災ツーリズムの視点を:震災大国の経験は国際貢献の資源だ

山崎恭平

(国際貿易投資研究所客員研究員,東北文化学園大学名誉教授)

2016.12.19

 日本のインバウンド外国人旅行者は10月に2,000万人を超え,2016年は暦年として初めて大台に乗る。政府は成長戦略の中で観光立国を掲げ,訪日外国人を2020年に4,000万人,30年には6,000万人の目標を掲げる。世界の観光旅行業は関連産業が多く,GDPの1割程度を占めるようになった。日本では潜在的な観光資源に恵まれ平和時に成長する産業で生産波及効果が大きいから,成長戦略の一環としての「観光立国」は遅きに失したきらいがある。また,東日本大震災からの復興を図る東北地方には日本全体の1%程度の外国人が訪れるに過ぎず,政府は今年度を東北観光復興元年として2020年までに外国人延べ宿泊数を現在の3倍の150万人に増やすとしている。そのための振興策には相変わらず道路網や大型客船就航の港湾整備といったハード重視が目立つが,財政が厳しい現状では大金を投じなくても被災地を訪問し防災や減災を学ぶ「防災ツーリズム」が内外から注目されており,英語にもなったBOSAIの国際貢献に応えるために観光立国の振興策としてもっとこれを活用すべきと思う。

 11月5日は,東日本大震災翌年に定められた日本の「津波防災の日」だけでなく,今年から国連の「世界津波の日」(World Tsunami Awareness Day)となった。地震や津波被害の多い日本の伝承を活かし防災の大切さを世界に共有するため日本が主導し国連加盟国142カ国が共同提案し記念日となった。国連は日本の経験や知見を世界的に発信し共有すべく防災の世界会議を開催するようになり,第1回会議を1994年に横浜市で開催して防災理念をまとめ,第2回会議は2005年に神戸市で開催し防災行動枠組を定め,2015年には国連の先進的防災ロールモデル(模範都市)の仙台市で第3回会議を開催した。

 大地震と津波被害,東電福島第1原発事故の複合災害後4年目に開催された仙台会議は,世界185カ国・地域や国際機関からの代表6,500人以上が出席し,セミナーやシンポが400件近く,防災機器展等200以上のブース展示のパブリック・フォーラムへの参加者を含めると内外から5日間に15万人が参加,仙台市では過去最大の国際会議となった。ここでは,世界の防災指針である「仙台防災枠組2015-2030」が合意されたほか,自然災害大国日本の防災減災に関する経験や知見の世界への発信が求められた。会議には被災地スタディ・ツアが併設され,参加者の多くは被災現場を訪れて見学しメディア媒体では得られない防災の大切さを実感できたと評価した。大震災直後から被災地には内外の行政や研究機関,企業の研修や視察,学校や大学の修学旅行で訪問者が増え,防災ツーリズムが高まっている。

 防災ツーリズムの資源として被災地では悲惨な被害を後世に残す震災遺構の保存が進んでおり,阪神淡路大震災の遺構である神戸市の「人と防災未来センター」には年間で内外300万人が訪れている。また復旧復興過程では資源が見直され新たに生まれている。水産業が盛んな三陸海岸では「森は海の恋人運動」がカキ養殖の復活を早め,女性たちの漁網の繕い技能が高級ニット製品を生み出し,塩害や放射能汚染地ではイチゴや花卉栽培の植物工場が人を呼び込み,東松島市のスマートシティ構想はまちづくりのモデルとなった。「津波てんでんこ」の伝承を活かした「釜石の奇跡」は語り部ツアで見学者が絶えず,原発事故現場近くでも複合災害の教訓発信に向けて復興国際ツーリズム事業(広野町)や震災遺産保全条例制定(富岡町)の動きがある。

 東北大学に新設された災害科学国際研究所(IRIDeS)は実践的防災学の世界的な拠点を目指し,福島大学の環境放射能研究所や福島県立医大の国際医療科学センターには内外の研究者が集まるようになった。防災の国際協力ではJICAの研修事業で被災地を訪問し学ぶ外国人が増え,自治体の姉妹都市交流事業では防災減災をめぐる海外との人の往来が見られる。スイスのダボスで隔年開催される国際災害リスク会議は,今年11月に第6回会議が開催され70カ国から約500人が出席し,ダボス開催の翌年に仙台で「国際防災フォーラム」の開催が決まり,来年に初回が開催されることになった。

 被災地東北は,復興と未来の地域創生に向けてISS(国際宇宙ステイション)や南極観測に匹敵する国際科学研究プロジェクトの誘致を図っている。ILC(International Linear Collider)という大型線形加速器を北上山地南部に建設する計画で,その政府決定を控えて12月5〜9日に盛岡市で国際学会が開催され,内外の研究者や業者約350人が参加した。実現すれば約1万人の外国人研究者と家族が居住する日本初の国際科学研究都市が生まれ,「サイエンス・ツーリズム」振興の期待も高まっている。近年見られた爆買いのような外客誘致の派手さはないが,災害大国で科学立国を目指す日本ゆえの観光立国への道筋をもっと重視すべきと思う。

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