世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.759

「モノ」の輸出に頼らず知的財産権使用料で稼ぐビジネスモデル

増田耕太郎

((一財)国際貿易投資研究所 客員研究員)

2016.12.05

 塩野義製薬(株)のロイヤリティ収入(1,018億円)は,ロイヤリティを除いた営業利益(914億円)より大きい(2015年度決算)。ロイヤリティ収入のうち,高コレステロール血症の治療薬・“クレスト―ル”(476億円)と,HIV治療薬の“HIVフランチャイズ(一般名,ドルテグラビル)”(405億円)の2品目で9割近くを占める。“クレスト―ル”は英国・アストラゼネカ社が販売し,126カ国の総売上額は55億ドルに達する(2014年)。また,HIV治療薬と関連商品は今後も大幅な売り上げが期待でき,販売額の10%後半から20%前半の相当額をロイヤリティとして受け取る見込みと説明している。

 塩野義製薬ばかりではない。日本の大手医薬品製造企業は米国企業等をM&Aなどで傘下に加え海外事業を強化する一方,特許権をもとにしたロイヤリティ収入で稼いでいる。自動車製造業は外国からのロイヤリティの受取額が最大業種である。ロイヤリティ収入の9割を海外の子会社からの受取で占め,親子会社関係にない「外販」による収入の割合が小さい。ところが,医薬品製造業は海外子会社からの収入は4割以下で,「外販」によるものが6割近くを占める。医薬品製造業は「外販」の受取額でみると最大業種である。

 日本の医薬品貿易収支は大幅な輸入超過が続き,輸入額は輸出額の約7倍前後と大きい。その背景に,医薬品企業のグローバル展開が自動車産業やエレクトロニクス産業と異なる海外事業の取り組みがある。グローバル展開を図るには,①日本で製造・輸出する,②海外子会社(買収して子会社化したものを含む)の工場での生産や海外での生産を請け負う企業に委託生産する。③世界各地で販売するために,外国企業に製造や販売を認めライセンス収入で稼ぐ(知的財産権使用料による「外販」ビジネス)がある。日本の医薬品企業は③のビジネスモデルを活用し「知的財産権使用料」で大きな利益を得ている。

 このため,今後も,日本の製薬企業が諸外国の患者に使われる医薬品(創薬)を開発しても輸出が増えるとは限らない。商品輸出に頼らず,海外から特許料等の知的財産使用料で稼ぐビジネスモデルを活用すると考えられるためだ。

 医薬品(創薬)は特許等の知的財産権で保護されている。特許権は原則として一つの物質特許で,その保護期間中は独占的な利益を得ることができる。ライバル企業が効能等で競合する創薬が発売されないうちに利益回収することが不可欠である。短期間に世界中で製造・販売し収益を上げるには,特許権の使用を認めライセンス収入を得ることが有力な手段になる。特に,自社で世界大の販売網を構築していない場合には不可欠である。

 こうした状況を踏まえると,外国での医薬品販売のために日本で製造・輸出する選択を選ぶかどうかは,日本での生産が有利であるのか,販路をどう確保するのかによって決まる。日本の需要には国内生産,米国などの主要大消費地向けは現地生産をとりいれる一方,短期間に世界大での販売をするために製造・販売ライセンスを供与する方策を活用する,等の手段を採ることが見込まれる。

 これからは,短期間で地球大で市場が広がり,需要を満たすために提供できる期間は短くなる一方である。医薬品以外の他の分野でも~特にコンテンツ・ビジネスやITサービス等の技術志向が強い分野では,グローバルな事業展開を自力ですべてをまかなうことに拘らず知的財産使用料で稼ぐ取組が必須になるだろう。

 日本がこのような分野を強化し発展させるには,世界に通用し知的財産保護が可能になる研究開発活動への支援に加え,日本での生産が有利になる環境基盤を整えること,外国から「知的財産権使用料」の獲得を生かす施策が重要になる。

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