世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.749

先進国・消費地に立地する製造拠点の回帰:インダストリー4.0,IoTの進行がもたらす変化への胎動

増田耕太郎

((一財)国際貿易投資研究所 客員研究員)

2016.11.14

 ドイツのスポーツ用品メーカー・Adidas社は,米国ジョージア州(アトランタ)でロボットによる靴の生産を開始すると発表した(2016年8月)。スピードファクトリー(Speed Factory)と呼ぶ新工場建設は,生産を開始しているドイツ・バイエルン州の工場に次いで2工場目。当初の計画より1年も早く前倒しで,2017年後半からランニング・シューズから生産を始める。中期的には複数ジャンルの靴を年間50万足生産する方針である。

 年間50万足は,3億足を優に超える同社の年間生産量に比べると1%を遥かに下回る「微量」である。賃金が高い先進国の需要先の近くで生産するには,人手を省きオートメーション化が決定的に重要で,それが実現できることを示している。それにより,物流コスト,サプライチェーンのコストを引き下げ,納期の短縮,在庫費用の圧縮につなげる。Adidas社以外にもNike社などが先進国での生産を計画しているようだ。

 現在の生産方式は,数か月前に販売予測した結果をもとに,途上国に工場を持つ委託生産先に大量発注する。販売予測が外れると製品は倉庫に滞留してしまい,販売価格を大幅に引下げ見切り販売するパターンに陥る。一方,需要者の近くで生産をすることでユーザーにあった製品を短期間で提供できると,在庫を極力持たない生産が可能になる。

 現時点では生産を途上国から先進国に移転する例はきわめて少ない。米国市場で販売されている「はきもの類」の98%,「アパレル」の97%は輸入品である。米国内で生産しているのは高価な「プレミアム商品」が主で,途上国で大量生産する価格帯の商品ではない。

 顧客が多い先進国で生産する背景には,インダストリー4.0(「Industry 4.0」)やIoT(Internet of Things)と呼ぶ大きな潮流の先駆けといえる変化がある。Industry 4.0は,「ものづくり工場のスマート化」「自分で考える工場」をめざし,ものづくりにおいて,あらゆる製造・生産プロセスをサプライチェーンごとにネットワーク化して高度なセンシング機能,監視機能と組みあわせて高い自立性を持たせることを狙っている。

 リアルタイムに膨大なデータを収集・蓄積しその分析データをもとに,顧客が欲しいものに絞って生産し,在庫の圧縮と商品の多様化・細分化を実現する。顧客一人一人のニーズに応え様々なバリエーションのデザインを短時間で顧客に提供する。しかも,生産状況の進行状況をライブで見ることもできる。その結果,ITを基盤とした自動化によるコスト削減は,おそらく顧客によるカスタムオーダー(「デジタル・オートクチュール」)につながった生産方式といえる。

 履物類に比べ,アパレルは工程が複雑だから自動化には困難がともなう。それでも,島精機製作所は,アパレルやシューズの新しい生産システムの確立をめざし,本社(和歌山市)内で全自動生産システムの確立のための研究開発を行っている。ファーストリテイリングとはニット商品の共同開発,製造を目的とした合弁会社(「イノベーションファクトリー」)を設立し,ニット製品の自動化は遠い将来ではない段階にある。

 こうした大消費地に近い場所での製造業回帰は予想を超えて早まる可能性を感じさせる。

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