世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.725
世界経済評論IMPACT No.725

日本の国のかたち(その1)

三輪晴治

((株)ベイサンド・ジャパン 代表取締役)

2016.09.26

自分の頭でものを考える

 司馬遼太郎は『この国のかたち』のなかで,誰かの言として「日本人は,いつも思想はそとからくるものだとおもっている」と言っていた。特に最近は,日本人は,世の中の基本的なことを,自分の肩の上に載っている自分の頭で考えることをしなくなったと言われている。誰も「これは何かおかしいぞ」という声を出さない。特に戦後日本人は,「日米安保」に縛られて,自分独自の思いを巡らすことを避けて通ってきたような気がする。大企業の内部でも,会社の空気を読み,変なことを言わないように,大変な努力をしているようだ。これだから日本からあまり「イノべーション」が出てこなくなるのだろう。

 司馬氏は,日本がそうした「思想」を生み出さなかったのには訳があると言っていた。「普遍的な思想がうまれるには,文明上の地理的もしくは歴史的条件が要る。たとえば,多様な文化をもつグループ群が一つの地域でひしめきあい,ときには殺しあうという条件のもとで歴史が熟すると,グループ群を超えた普遍的思想が出てくる」と言う。つまり日本には,いろいろの文化を持つグループが殺しあいになるところまで煮詰めないで,何となくうやむやにしてしまう癖があるのかもしれない。日本の大乗仏教の「あきらめ」がそうさせているのか知れない。

 でも日本はいまやそうとも言っておれない時期に来ている。殺し合うという状況まで行っていないのかもしれないが,日本の自殺者の数,若い者の今日の「精神的・経済的貧困」は大変なところに至っている。1984年にあるグループが衝撃的な論文である『日本の自殺』を出したが,この状況は現在も続いているのではないかと思う。だが日本人はゆでガエルになり,それを感じていないのかもしれない。

 七面倒臭い「思想」でなくとも,「これは何かおかしいぞ」と思ったら,「日本をこれからどうするのか」を自分の頭で真剣に考えなければならない時に来ている。繰り返し「自分の肩の上に載っている頭で考えろ」と言われたのは,私の先生の向坂逸郎教授であった。

 それでも今,日本では,アメリカから要求された「集団的自衛権」に端を発して,「日本国憲法」と変えようという議論がでている。でも,現在行われている議論は,私にはどうもピントが外れているように思えてならない。「誰が創った憲法か」ではなく,これからの21世紀の世界で,日本が再発展するためにはどのような「国のかたち」であるべきかである。それも「自分の頭で考える」ことであり,他国の真似をすることではない。

「アメリカの国のかたち」

 国のかたちは,それぞれの歴史の中で生まれ,時代とともに変化してきているので,それぞれ違うのは当たり前であるが,これからの時代に適合できるかという点で,ここで考えてみる必要がある。

 日本の国のかたちを考える上で,「アメリカの国のかたち」を知る必要がある。アメリカは,ヨーロッパで虐げられていた人たちが,これまでにない新しい産業経済国家を創りあげようとの志をもって新大陸に渡り,創りあげた新しい「人工国家」である。これまでの王政・封建社会から進展して近代国家になったヨーロッパの国とは「国の骨格」が違う。言うまでもなく戦後に出来た日本国憲法に描かれた日本の国のかたちとも違う。

アメリカ憲法

 「アメリカの国のかたち」を,「アメリカ合衆国憲法」から見てみよう。

 アメリカ合衆国憲法には,アメリカは,国民の福祉・繁栄のための「産業・通商」国家をドライブする強力な投資循環拡大エンジンを備え,国防力を含め,それを「国民的公益」(national public interest)として実現するための強力な「公益規制」(public interest & regulation)をもった国の骨格が示されている。

 「前文」にはこう宣言されている。「われら合衆国国民は,一層完全な連合国家を形成し,法的正義を確立し,国内の安寧を保障し,共同の防衛力を備え,全体の福祉を増進し,また,われら自身とわれらの子孫に,自由の恵択を確保する目的をもって,アメリカ合衆国のために本憲法を制定する」とある。

 第一条8節3項には,Regulate Commerce という言葉で,「産業・通商の発展をドライブする」ことが明記されており,6項には,産業を興すための資金を国民から株式の形で集めるが,大衆が安心して投資できるようにその証券(Securities)の管理をするとしている。8項には,著作権,特許権を与えて科学,技術の発展を促進するとある。1項では,防衛,一般の福祉そのたのために産業から,国民からの租税の徴収権を明記している。

 この基本精神は,1914年に第28代大統領のトーマス・ウイルソンが述べた「アメリカの富は既存の支配階級から生まれるものではなく,未知の人たち(unknown men)の創造力(origination)と発明(invention)と野心(ambition)によって創られるものである」という言葉に表現されている。アメリカ全体をイノべーションによってドライブするという仕組みである。

 アメリカの経済をドライブする「主導産業」の開発を常に念頭に置き,USCA(連邦法典通訳集)にはAgriculture,Commodityの他にTransportation,Communication,が並び,時代の変遷とともに新しい主導産業が確定され,国家としてその開発がドライブされている。(つづきは,その2へ)

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article725.html)

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