世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
世界経済の新しいうねり(その5)
((株)ベイサンド・ジャパン 代表取締役)
2016.09.19
グローバリゼーションの行き過ぎ
これが先に見た,経済格差,大所得格差をもたらし,世界的な経済停滞を招いている。世界は,グローバリゼーションによる疲労(Globalisation fatigue)に悩まされている。
一つはっきりしていることは,グローバル化が行き過ぎると国民経済社会を錯乱することになる。グローバリゼーションは世界ベースの競争の渦を造り,一番安い労働コスト,管理コストを求めて,限りなく拡大を強要され,無国籍企業が世界を駆け廻り,世界経済を錯乱する。今世界の経済をリードするアップルのアイホンのグローバル・サプライチェーンを見ると,「羊羹長屋」と呼ばれているように,その部品供給者,下請け業者は,1セントでも安いものに入れ替えられ,経営を振り回されている。国民経済も振り回される。
これにより,各国の国内格差が拡大し続けている。「1990年から2010年までのジニ係数は平均2%以上上昇している。このトレンドを作りだしたのは,主に経済大国だ。特にアメリカでは1990年から2013年の間にジニ係数が5%上昇している」(『拡大する国内格差と縮小するグローバルな格差』フランソワ・ブルギニョン フォーリン・アフェア―ズ・レポート 2016 No.2)
しかしもっと重要なことは,国民国家経済としての経済政策,社会政策が制限されてきていることだ。とくにEUではそれが問題になっている。
いずれにしても,グローバル化は,どこまでも拡大を続けることを強要し,最終的には価格切り下げ競争となり,相手ともども玉砕することになる。つまりグローバル企業が量を追い求めて事業を核分裂的に拡大すると必ず自爆し,自滅する。また国民国家を破壊する。つまりグローバル化の本性である「N乗成長」「核分裂」は人間経済社会には適合できないものであるということだ。今日のグローバリゼーションは完全に制度疲労を起こしている。問題はこれからグローバル化の行き過ぎをどう制御するかである。これには新しい世界経済の制度設計をしなければならない。
イノベーションの方向転換:Disruptive Innovation
今日の企業の問題は,新しいビジネス展開の夢と計画がないことだ。だから金はあるが,新しい投資もできない。やむなく現存の商品のコストダウンで価格切り下げ競争を続けてゆくしかない。これでは新しい職場も増えないし,賃金も上げられない。
つまり今日の世界経済の停滞は,基本的には,産業活動としてのイノベーションの停滞からきている。このイノベーションを,国を挙げてプロモートしなければならない。
そうはいっても「主導産業」を開発するのは簡単なことではない。アメリカがやってきたユニコーンの開発は容易ではない。全く新しい技術の開発は大きなリスクがある。大企業でも手が出せない。
同じ市場,同じドメインでの産業の価格競争による殺し合いは,世界経済の発展にならない。これではGDPとしてのその市場は縮小するし,生産性向上の名のもとに,コストを下げるために労働者を削減し,賃金をカットしてきた。これが所得格差を拡大させてきた。この価格切り下げ競争の連鎖を断ち切る必要がある。ただ大企業も新製品開発には人も金も投入しているが,これまでとは全く違ったモノで,大企業のビジネスの大きな柱になるモノを開発することは大変困難で,従ってあまり成功していない。
しかし,同じ技術,商品でも,他の要素技術と結合させて,それまでとは違ったドメインに適用して,「全く新しい市場を創造する」道がある。それは筆者の提唱するDisruptive Innovationである。同じ技術,商品に新しい違った要素を結合して,これまでとは違った新しい市場を創造することである。こうした道は,これまでも多く存在した。ただこのコンセプトを意識して開発されたものではなかった。アメリカで一品料理的な自動車からフォードが新しい市場としての農民の足として開発したModelT,メインフレーム・コンピュータからパーソナル・コンピュータ,ソニーの定置式ステレオに対するウオークマン,
パーソナル・コンピュータからスマートフォン,定点輸送から宅急便,などと多くある。
これには二つの特徴がある。一つは全く新しい市場であるから価格切り下げ競争にならない。開発当初から価格競争では事業として成功しない。もう一つは既存の技術,商品を基にしているので開発者は自信が持てる。開発における成功への自信は大きな要素となる。
今や新しいコンセプトの産業が芽生えている。「B産業化」の推進である。つまり,社会にベネフィットをもたらす企業が伸びる環境が出てきている。これも新しい市場の創造である。あるいはESG産業(環境・社会・企業統治)の開発が世界的に進んでいる。社会・環境に良い商品の開発である。今や中国もインドも「社会的企業」をどう開発するかを議論し,それを実現しようとしている。
新しい商品の開発,新しい市場の創造のチャンスはいくらでもある。(つづきは,その6へ)
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三輪晴治
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