世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.658

欧米メガFTA,TTIP交渉の先行き:交渉促進をG7首脳宣言に明記

田中友義

(駿河台大学 名誉教授)

2016.06.20

 3つのメガFTA,TPP(環太平洋経済連携協定),日EU・EPA(日EU経済連携協定),TTIP(環大西洋貿易投資連携協定)について,先般5月26日,27日のG7伊勢志摩サミットの首脳宣言の中の貿易宣言の部分に,交渉促進の文言が明記された。

 TPPについては,昨年10月の大筋合意,本年2月の正式調印後,日本では国会で継続審議中のこともあって,国内の主要メディアなどでその動向が頻繁に報じられているものの,TTIP交渉の動向について報じられることは少ない。

 去る4月22日,訪英したオバマ米大統領はキャメロン英首相との会談で,英国民が来る6月23日の国民投票でEU離脱(Brexit,ブレグジット)を選択した場合,「英国は行列の後ろで順番待ちすることになる」として,英国との貿易交渉よりもEUとTTIP交渉を優先する考えを明らかにした。もっとも,このオバマ発言は,残留派のキャメロン首相の立場を強く支持するもので,離脱派のジョンソン前ロンドン市長などは「内政干渉ではないか」と激しく反発している。

 TTIPの狙いは,第1には,米国,EUにおける雇用,成長,競争力の促進という,経済的効果への大きな期待である。第2に,米国,EUの経済力と影響力の回復によって,中国,インドなどの新興国の急速な台頭に対抗するという,地政学的な意図である。

 交渉開始の2013年7月から3年近く経過している。米EU首脳は,機会あるごとに,早期合意をめざすことを確認しつつも,交渉のスピードは上がっていない。TTIP交渉の最大の焦点は,何と言っても非関税障壁(NTB)の取り扱いがどうなるかということである。関税撤廃のように協議が大きく進展している分野もあるが,EUが投資保護と投資家対国家紛争解決(ISDS)を交渉の対象にすることに消極的であったり,米EU双方で重要分野と位置付けている農業問題,とくに,トウモロコシ,大豆など遺伝子組み換え作物(GMO)や成長ホルモン剤使用牛肉など食の安全規制についても,EUの厳しい衛生検疫規制(SPS)を米国側が問題視,EUが映像・音響サービス分野の交渉の対象外とすることを求めていることに米国が強く反対するなど,今後の交渉が難航する分野が多く残されている。

 今回のG7首脳宣言によって,TTIP交渉が後押しされる形になったものの,今後の交渉の行方を大きく左右する欧米双方の政治社会的な要因も無視できない。

 難民危機,ギリシャの財政破綻など多くの難題を抱えるEUの当面の最大のリスクは,6月の英国の国民投票の結果である。ブレグジット問題は決して絵空事ではなく,現実に起こりうるということである。もし,英国の離脱が現実化すれば,少なくとも脱退告知から2年後よりリスボン条約の適用が停止され,その間にも,EU,英国ともに政治も,経済も,社会も一段と不安定化するだろう。

 米国の方でも,本年11月の大統領選挙に向けて,民主・共和両党の各州予備選挙がヒートアップ,7月後半には両党とも大統領候補者を選出する山場の時期を迎えている。民主党予備選候補のクリントン氏,サンダース氏,共和党候補指名獲得のトランプ氏はともに,TPPに不支持か反対する発言をしていることは,TTIP交渉の先行きにも暗い影を落としている。

 レームダック化するオバマ大統領としては,アジア重視のTPP批准をレガシ―(政治的遺産)として残したい。あえて「二兎を追わず」,TPPの議会承認に最大限の努力を傾注するだろう。

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