世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.630
世界経済評論IMPACT No.630

ビジネススクールの発展戦略

吉原英樹

(神戸大学 名誉教授)

2016.04.25

 日本のビジネススクールには,「限界ビジネススクール」が多い。これは,限界集落を援用した概念であり,存在価値がなくなりつつあり,存亡の危機にあるビジネススクールのことである。

 ここで,限界ビジネススクールを対象にしてその発展戦略を考えることにしたい。

 限界ビジネススクールが存続し,さらには発展するには,日本の実情に合わせること,すなわち,ビジネススクールをめぐる環境に順応することが必要である。

 ビジネススクールの環境として,重視すべきなのは,大企業,とくに,クラシック企業などといわれる歴史のある優良企業は,ビジネススクールの卒業生(MBA)をもとめていないことである。MBAは評価されないのである。

 他方,勤務時間を割いて,高い費用(授業料,通学の費用など)をかけて,ビジネススクールで勉学している企業人はすくなくない。かれら・彼女たちは,経験,勘,度胸,根性,やる気,人脈だけでは不十分であることを自覚している。自分の専門分野の,また,専門分野以外の経営の最新最高の概念・理論・技法などの習得の必要性に気付いている。

 非企業,すなわち,役所,病院,学校,図書館,農業(農家・農業法人),福祉団体,NPO組織,専門家(税理士,会計士,コンサルタントなど)にも,経営リテラシーの需要が高まっている。これらの多くは,赤字であり,経営改善がもとめられているからである。

 ビジネススクールの発展戦略はひとつではない。いくつかの特化戦略にわけて考えることができる。

 国際金融,ICT,コーポレート・ガバナンス,中国など特定のテーマについての最新・最高の理論・技法などを教える。反対に,経営学の理論や手法を幅広くカバーする基礎・入門コースを提供する。このふたつについても,さまざまなバリエーションがありうる。前者の場合,理論志向と実務志向の両方があろう。たとえば,中国のテーマについては,中国の歴史,政治,共産党,文化,地政学などを対象にして,学術的に掘り下げた内容を教えること,反対に,最新の実態などの詳細な情報を提供すること,の両方があるだろう。

 ビジネススクールの発展戦略の構成要素ないし特徴としては,つぎのようなものをあげることができる。

  • ・パートタイム学生(働きながら通学)
  • ・平日夜間・週末に授業
  • ・軽い勉学負荷
  • ・多数科目履修(コース)と科目履修(アラカルト)の併用
  • ・安い授業料
  • ・サテライト教室(通学しやすい都心,駅近くに立地)
  • ・日本語で授業

 上でみた戦略のビジネススクールの競争相手には,会計士,秘書,コンピュータ専門家,服飾デザイナー,介護士,看護師,作業療法士などの教育・育成を目的にする各種学校がある。強敵である。ビジネススクールが勝るのは,もしかしたら,大学のブランドと修士号あるいはMBAの称号だけかもしれない。各種学校には,教員も学生もまじめに熱心に教え,勉学しているところが少なくない。限界ビジネススクールが今後の生存と発展を考える場合,教員と学生の資質・姿勢,授業の内容と教え方など,各種学校を参考にできるところが少なくないと思われる。

 これまでみてきた限界ビジネススクールの生存と発展のための戦略とは別に,少数の優良ビジネススクールのための戦略がある。日本のグローバル企業の社員を対象にする,競争相手は欧米の一流ビジネススクールである,英語で授業する,学生・教員の多国籍性などの特徴があるだろう。この戦略が該当するのは,おそらく5校からせいぜい10校程度であろう。

  • *本稿は,筆者と金雅美(和光大学経済学部)の共同研究にもとづいている。つぎを参照。Hideki Yoshihara and Ahmi Kim (2015), “ Japanese Business Schools: Adaptation to Unfavorable Environments”, Journal of International Business(『国際ビジネス研究』)2015年第7巻第1号,15−30ページ,149ページ。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article630.html)

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