世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.627

中国は,チャイナ・リスクにどう対応すべきか

中條誠一

(中央大学経済学部 教授)

2016.04.18

 やや沈静化したとはいえ,チャイナ・リスクが消え去ったわけではない。世界経済に動揺をもたらした中国の株安,人民元の下落は,心理的要因によって過度に誇張された色彩が強い。とはいえ,中国経済は内外経済環境の変化によって,成長戦略の転換期を迎えていることは間違いない。

 中国はこのリスクに対して,どのような対応を取ればよいのかを考えてみたい。その際には,中・長期的な政策と,当面のチャイナ・リスクへの対応を分けて考える必要がある。

実物経済の構造転換,金融経済の強化・国際化

 中国経済の崩壊さえ聞かれるが,本当にそうなるのであろうか。確かに,中国経済が厳しい状況に見舞われていることは否定し得ない。「外資導入による輸出主導型発展戦略」が行き詰まり,重厚長大型産業の過剰生産問題,環境問題,資源問題,生産コスト上昇問題などに直面し,従来型の輸出と設備投資を軸とした成長戦略が限界をきたしている。そうして中では,「内需主導型」へと転換するだけでなく,産業構造を高度化し,技術集約的で高付加価値商品を中核に据えていかなければならない。実物経済面でのこうした構造転換なくして,安定的な成長の持続はありえない。

 もう一つ中国経済の持続的発展の鍵を握るのが,立ち遅れている金融経済面の強化に他ならない。脆弱な金融システムを強化することは,実物経済の持続的発展にとって不可欠であるが,同時にその金融市場を対外的に開放し,ひいては人民元を国際通貨,とりわけアジアの基軸通貨化することは,中国経済にとって大きなメリットがあるからである。

資本取引の自由化と為替システムの弾力化

 まずは,国有商業銀行の改革,金融の管理・監督体制の整備,金融機関の経営の効率化,債券市場の育成などの金融改革によって,中国の金融市場を幅広く,厚みのある近代的な市場へと発展させなければならない。そうしなければ,外的ショックに耐えることができず,資本取引を自由化し,海外に市場を開放することもできないからである。

 もう一つ,資本取引の自由化を進めるためには,それと並行して人民元の為替レートを弾力化していかなければならない。固定的なままで,対外的に金融市場を開放したならば,資本の流出入が激増し,金融市場が大混乱に見舞われかねないからである。つまり,中国が遂行すべき基本的な政策は,金融改革の推進をベースに,段階的に人民元の為替システムの弾力化と資本取引の自由化を同時並行的に進めることに他ならない。

 その資本取引の自由化の中で,そこでの人民元の使用を解禁していくならば,現在はほぼ貿易と直接投資に限定された人民元の国際化が,本格的に進展する可能性が高まるであろう。まさに,本当の意味で人民元が国際通貨の仲間入りを果たすことができよう。

当面は,資本取引の規制を

 しかし,目先はそれに逆行する対応が必要である。チャイナ・リスクが心理的な不安をあおり,金融面での動揺が実物経済にも必要以上の悪影響を及ぼしている。特に,中国が資本取引を規制してきたとはいえ,人民元の先安予想が強い中では,それをかいくぐるホットマネー(熱戦)の逆流だけでなく,正当な外貨借り入れの前倒し返済や対外投資の増加などは当然起こる。それが実際に人民元安を招き,さらに助長されるならば,人民元の暴落にもつながりかねないからである。

 これに対抗すべく,外貨準備を使って人民元を買い支えることには限界がある。金融面での政策的対応には,状況に応じた機動性と明確な市場へのメッセージが重要であり,再び人民元暴落懸念が高まった場合には,明確な資本取引の規制強化を打ち出すべきである。そのことが人民元の国際化にとって,決定的な障害になるとは思われない。日本でも,資本取引の自由化は一時的には前進・後退を繰り返しながら段階的に進めてきた。メンツの国,中国といえども,決してメンツを失うことにはならない。

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