世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.626

日中韓FTAへの期待度を高めるにはどうすればいいか

高橋俊樹

(国際貿易投資研究所 研究主幹)

2016.04.18

TPP合意後の中国の対応

 TPP交渉の合意を受けて,中国の対応が注目されている。中国はAIIB(アジアインフラ投資銀行)を活用して一帯一路(シルクロード)構想を推進しようとしている。中国は一帯一路構想を進める前からASEANに日中韓を加えたASEAN+3という東アジア経済圏構想を主張してきた。一方,ASEAN+3に豪,NZ,インドを加えたASEAN+6を提唱したのは日本で,これが現在のRCEP(東アジア地域包括的経済連携)の構成国につながっている。

 中国としては,具体的なTPP合意への対応として,自らがTPPに参加,TPPに参加せずに日中韓FTAやRCEPを積極的に主導,当面の間はAIIBや東アジア経済圏(ASEAN+3)などの枠組みを活用し中国の影響力を高める,などの選択が考えられる。この中で,東アジア経済圏構想の枠組みにおいて,AIIBを核にした中国主導による経済連携などを推し進めることは,中国にとって一帯一路構想の延長であり,ある意味では,日中韓FTAを後押しすることにもつながる。

日中韓FTAの経済的重要性は高い

 中国は東アジア経済圏構想などを背景に日中韓FTAに着目しつつあると思われるが,日本では日中韓FTAへの期待度はRCEPほど高くはない。これは,日本と中国・韓国との外交的な問題とともに,発効済みの中韓FTAでは,自動車や一部の自動車部品の関税撤廃は例外扱いで,自由化率が9割程度と低いこともあり,日本の中国・韓国に対する市場開放の期待感が薄らいでいることも背景にある。また,RCEPは日中韓3ヵ国を含んでいるため,切り離して日中韓FTAを進めるメリットがわかりにくいのかもしれない。

 しかしながら,日中韓FTAの経済的な重要性は高い。日本の製品を買ってくれる実質的な購買力の指標を見てみると,1995年においては,日中韓FTAの構成国である中国・韓国合計の購買力平価GDPは日本の0.8倍(RCEP全体は1.8倍)にすぎなかった。これが2020年には,中国・韓国合計の購買力平価GDPは日本の6倍と見込まれる(RCEPは10倍)。

 すなわち,1995年以降,中国・韓国は日本製品の販売市場としての重要性を飛躍的に高めている。ちなみに,TPP構成国全体の購買力平価GDPは,1995年には日本の3.4倍,2020年には5.8倍であり,この間の増加率という面では,日中韓FTAやRCEPを下回っている。また,RCEPと日中韓FTAを利用した場合の関税削減効果は,どちらもTPPよりも高いと見込まれる。

RCEP交渉はどうなるか

 2015年8月のマレーシアにおける第3回閣僚会合において,物品貿易の進め方で進展があり,報道によれば80%の自由化率で合意に至ったとのことである。この80%の合意が最終的な水準であるのか,あるいはイニシャルオファー(最初の提案)で徐々により高い水準に引き上げていくのかは判然としないが,おそらくは交渉の出発点であると考えられる。

 RCEPは,合意目標期限を当初の2015年から1年延長し2016年内に変更した。しかしながら,マレーシアでの合意がイニシャルオファーだとしたならば,これから物品貿易の関税交渉が本格化することになると予想される。しかも,原産地規則などの面でインドを含むRCEPは複雑な交渉を控えている。したがって,RCEPの2016年内の合意はかなり困難であり,まだまだ時間がかかると思われる。

日中韓FTAなどへの日本の対応

 日本に期待されるメガFTAへの対応は,まずTPPの新たなメンバーの拡充を図ることだ。既に,タイ,インドネシア,フィリピン,台湾,韓国からTPPへの参加意思表示がある。もしもこの中の何ヵ国かがTPPのメンバーとして認められれば,TPP域内でのサプライチェーンに厚みが増すだけでなく,中国・韓国はTPPへの参加に加えて,日中韓FTAやRCEPの交渉を推進する圧力を受けることになる。

 また,RCEP交渉の遅れが見込まれる中で,日本や中国の日中韓FTAへの対応次第で,RCEPの合意内容が左右されることが予想される。既に日中韓は2015年11月の首脳会議で交渉加速化に合意しており,これが実際に成果につながれば,日本にとってより自由化された日中韓FTAを実現できるチャンスになる。特に中韓FTAで除外された自動車などの自由化で合意を得られれば,日本のFTA戦略にとって大きな前進となる。

 RCEPは共通関税率表を作成することになっているが,もしも日中韓FTAで先行して自動車などの関税撤廃に合意すれば,RCEPに波及し自由化率を引き上げる可能性がある。なぜならば,原則としてRCEPの共通関税率表の基では,全てのメンバー国に同じ関税率を適用しなければならないからである。この意味で,日中韓FTA交渉が遅れれば,両FTAは共に高い自由化率を達成できないこともありうる。

 日本のFTA戦略において,TPPの成果を日中韓FTAやRCEPにもたらすだけでなく,このように日中韓FTAで先行的に成果を上げ,それをRCEPの交渉に反映させることも1つの選択肢になる。つまり,日本が中国・韓国との間で日中韓FTA交渉を迅速かつ効果的に実行すれば,米国やRCEPなどとの通商交渉をより有利に進めることが可能になると思われる。

関連記事

高橋俊樹

国際経済

国内

アジア・オセアニア

日本

最新のコラム