世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1234

なぜ中国は日中韓経済協力に意欲的か:求められる日中韓の共同研究とプロジェクト情報の提供

高橋俊樹

((一財)国際貿易投資研究所(ITI) 研究主幹)

2018.12.31

 米国は通商法301条に基づき,中国の不公正貿易慣行に対して,2018年7月には第1弾目,8月には第2弾目の追加関税措置を実施。両方合わせて500億ドルの輸入額に25%の追加関税を課した。9月には,中国からの2,000億ドル相当の輸入品に第3弾目にあたる10%の追加関税を適用した。

 米国は中国に対して,貿易赤字の削減や技術移転の強要,及び国有企業への補助金の削減などを求めている。米中両国は2018年12月のG20での首脳会議で一時的な休戦に合意し,次の制裁までに3ヵ月間の猶予期間を設けることになった。もしも,この期間内に合意に達しなければ,第3弾目の品目に25%の追加関税が賦課されることになる。

 こうした米中間の摩擦の高まりにより,中国は日中韓3ヵ国間での政治経済関係を改善し,「一帯一路構想」や「日中韓域内や第3国での経済協力」に少しでも日本と韓国を巻き込むことにより,アジアにおける影響力の維持拡大を図る姿勢を見せている。中国の日本や韓国との経済協力に対する姿勢は真に意欲的であり,米国との長期戦に備えた戦略が見え隠れする。

 米国と中国との3ヵ月間の交渉の行方であるが,両国ともなるべく相手の譲歩を勝ち取り,この間にひとまずは矛先を収めたいというのが本音であろう。これは,追加関税により経済の動向に変化が表れている中国だけでなく,攻めの姿勢が顕著である米国においても,このまま合意に達せず長期化するならば,株価の下落にみられるような将来の経済不安につながることを恐れているためと考えられる。トランプ大統領は,少なくとも2020年の大統領選までは良好な景気と雇用環境を持続しなければならず,米中貿易戦争の長期化で経済が不安定化することは絶対に避けなければならない。このため,2019年の前半までに中国の譲歩を勝ち取り,後半からの景気悪化の可能性の芽を摘み取る必要がある。

 ただし,中国との技術や経済の覇権争いは今後とも続くと見られる。それは,中国の米国企業の買収に対する監視の強化という面でも顕著になっている。米国の保護貿易主義は通商法の適用拡大だけでなく,対米外国投資委員会(CFIUS)による対米投資の監視を強化する動きにもつながっており,米国は貿易と投資の両面で対中封じ込めを狙っている。

 米国の保護主義的な通商政策は,日本企業に対して一帯一路構想と日中経済協力への協力を促しただけでなく,対米輸出などに関するサプライチェーンの再編をもたらす。その1つとして,中国からタイ,インドネシア,フィリピン,ミャンマー,インド等へ生産拠点をシフトし(チャイナ+1),そこから米国の一般特恵関税制度(GSP)を利用し対米輸出を拡大するという対応が考えられる。また,米国がFTAを結ぶシンガポール,豪,韓国,コロンビアなどから対米輸出を行うという手段もある。

 一方,TPP11(CPTPP)は2018年12月30日,日EU・EPAは2019年2月の発効の予定である。さらに,交渉中のRCEP(東アジア地域包括的経済連携)や日中韓FTAを活用して,日本企業は今後のアジア太平洋でのサプライチェーンの拡充と広域化を図ることが可能になる。RCEPは2018年の合意を諦めたものの,2019年内の合意を目指しているし,日中韓FTAも同様である。RCEPは,中間財の国境を越えた相互調達の回数が多いアジア域内貿易の促進に効果的である。

 こうした日本取り巻く通商環境が大きく変化する中で,日本企業は,TPP11や日EU・EPA等のメガFTAを利用した農水産物や加工食品及び機械類などの分野におけるサプライチェーンの再編を描きつつあるものの,まだ一帯一路構想や日中韓経済協力における具体的な有望分野を明確に定めることが出来ていない。

 この意味においても,日中韓経済協力を進めるにあたって,3ヵ国領域内だけでなく,ASEAN諸国などの第3国での経済協力の可能性を探ることが重要になっている。その有望な分野としては,エネルギー・環境,産業高度化,物流,太陽光・風力・石炭火力発電,AI,人材育成,食糧問題,ヘルスケアなどを挙げることができる。具体例では,中国が海外から受注した高速鉄道車両の部品を日本が提供することや,あるいはタイ東部を南北に連結する「東部経済回廊」(ECC)と関連し,日中韓がスマートシティや工業団地の共同開発で連携することが挙げられる。

 しかしながら,一帯一路構想や日中韓経済協力へ日本企業の参加を促すには,大企業とともに中堅・中小企業に対しても,インフラや環境・エネルギー及びヘルスケアなどのプロジェクト情報を効果的に提供できるかどうかが鍵となる。さらに,日中韓による域内や第3国での経済協力を深化させるには,長期的かつ円滑な実施を展望する日中韓の共同研究が不可欠である。

関連記事

高橋俊樹

国際経済

アジア・オセアニア

日本

最新のコラム