世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3646
世界経済評論IMPACT No.3646

インドネシアのBRICS加盟申請とBRICS拡大の意味

石川幸一

(亜細亜大学 特別研究員・ITI客員 研究員)

2024.12.02

 ロシアのカザンで10月22日~24日に開催されたBRICS首脳会議の共同声明によると,インドネシアがBRICSの正式メンバー(full membership)として参加する意向を表明した。インドネシアの参加意向表明はインドネシアを含む13か国がBRICSのパートナー国として発表された翌日に行われた。インドネシアは,ジョコ前政権時代に大統領がヨハネスブルグで開催された首脳会議に参加しながらBRICS参加は時期尚早であるとして見送っていた。インドネシアがBRICS参加に姿勢を180度転換したのは10月20日に就任したプラボウォ・スビアント新大統領の外交方針によるものである。

 プラボウォ大統領の外交方針は全方位善隣外交(omnidirectional good neighbor policy)の推進であり,スギオノ外相は「BRICS参加は特定のグループに参加することを意味するのはなくインドネシアは全てのフォーラムに積極的に参加する」と述べている。インドネシアのBRICS加盟申請は,「戦略的に対立するグループのどちらかを選ぶのではなく,双方に参加する」という均衡外交と考えられる。インドネシアはBRICS加盟申請と同時にOECD加盟を進めており,米国主導のIPEF(インド太平洋経済枠組み)にも参加している(すでにBRICS参加申請を行ったタイ,マレーシアも同様である)。

 インドネシアは人口が2億7,980万人で世界4位,GDPは1兆3,170億ドルとASEANで最大である。ASEANのパートナー候補4か国を合計すると人口は4億8,590万人,GDPは2兆8,170億ドルとなる。ASEAN4か国のBRICS参加により,世界人口に占めるBRICSの割合は48%,GDPは29%に高まる。他の主要パートナー候補国のトルコとナイジェリアを合計するとBRICSの人口は世界の約50%,GDPは世界の30%を超える。

BRICS拡大で高まる経済的重要性

 ロシアは自国と中国をグローバルイーストと位置付けており,BRICSはグローバルサウスとグローバルイーストの連携を意味する。西側先進国であるグローバルノースとグローバルイーストは対立しており,両陣営はグローバルサウスの取り込みを図っている。BRICSの拡大はグローバルサウスの取り込みであり中国とロシアの外交的な成功を意味する。また,BRICS首脳会議に30か国を超えるグローバルサウスが参加し,ASEANを含むグローバルサウス13か国がパートナー国候補となったのは,孤立を懸念する中国とロシアがグローバルサウスとの関係を強めているというデモンストレーション効果が期待できる。また,カザンでの首脳会議の機会に領域問題を巡って対立する中国とインドが首脳会議を開催したことも外交的成果である。

 BRICSが拡大し人口規模で世界の5割を超え,GDPも米国やEUなどを超えていけば,市場としての期待も大きくなる。かたや,トランプ次期政権は全世界からの輸入に一律に10-20%の関税を賦課するとしている。そのため米国を代替する輸出市場として人口大国が多いBRICSへの期待は増すだろう。BRICSは世界の原油供給の約40%,天然ガスの埋蔵量の約50%を占めており,インドネシアのBRICS参加の理由の一つはエネルギーの安全保障だった。また,インドネシアはドル依存を減らしルピアを貿易決済に利用するための検討を行っており,BRICSの脱ドル化方針はインドネシアの政策と一致する。BRICSが拡大していけば,輸出市場,エネルギー供給,ドル依存脱却などでBRICS参加の誘因が強まる。そのため,BRICSに関心を持ち参加を希望するグローバルサウスがさらに増加する可能性があるだろう。BRICS拡大を過小評価すべきではない。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3646.html)

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