世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3482
世界経済評論IMPACT No.3482

右派勢力が躍進した欧州議会,新たな連携・再編模索

田中友義

(駿河台大学 名誉教授・ITI 客員研究員)

2024.07.08

EU内で早くも不安要素が露呈,政治的リスク高まる

 今年6月6~9日に行われた欧州連合(EU)の立法機関・欧州議会選挙で,極右を含む右派勢力が議席を大きく増やしたことは周知のとおりだが,その直後の6月13~14日にイタリア南部プーリア州ボルゴ・エニャツィアで開催された先進7か国首脳会義(G7サミット)の議長国イタリアのメローニ首相率いる右派政党「イタリアの同胞」が欧州議会選挙で大勝し,同首相の国内での政治基盤は揺るぎないものとなった。G7サミット恒例の記念撮影で議長のメローニ氏一人が晴れ晴れとした輝いた表情見せていた一方,他の首脳たちの表情は冴えないものだった。

 メローニ氏を除き,他の6か国の首脳たちは政権の足元が揺らぐ中でのサミット参加となった。一部の首脳は政権交代の可能性もはらむ大型選挙を控える。米国のバイデン大統領は今年11月の大統領選挙での再選に向けて共和党のトランプ前大統領に支持率でリードを許している。その上,高齢不安から撤退の圧力が益々高まっている。岸田首相も20%台の低い支持率で低迷しており,今年9月の自民党総裁選挙での再選が見通せない状況だ。ドイツのショルツ首相が率いる与党社会民主党(SDP)も大敗し,連立政権の足元が揺らいでいる。来年のG7議長国のカナダのトルドー首相も支持率が低迷している中,来年秋までに総選挙が行われるが苦戦が予想される。英国のスナク首相は今年5月に議会(下院)の解散に踏み切り,7月4日に総選挙が行われるが,与党保守党の支持率は野党労働党に大きく離されており,14年ぶりの政権交代の可能性が高まっている。

 中でも,最も深刻な政治的リスクを抱えているのが,フランスのマクロン大統領だ。同大統領が率いる与党連合は,マリーヌ・ルペン氏の極右とみなされている右派政党「国民連合(RN)」に欧州議会選挙で大敗し,電撃的に国民議会(下院)の解散に踏み切ったが,形勢逆転の大きな賭けは奏功せず,同氏の求心力低下は避けられない情勢だ(注,6月30日の第1回投票でRN・共闘勢力が33.1%の得票率で第1位,左派連合の「新人民戦線(NFP)」が27.9%で第2位,大統領率いる与党連合は20.7%と大敗。7月7日の第2回投票結果で,大勢が決まる)。

 話題をEUに戻す。欧州議会選挙後の欧州理事会(EU首脳会議)が去る6月27日に開催された。主要議題の一つが本年10月末に任期満了するEUの行政機関・欧州委員会委員長,欧州理事会常任議長(EU大統領),EU外交安全保障上級代表(EU外相)のトップ人事案件であった。フォンデアライエン委員長(中道右派)の続投(任期5年,以下同じ),ポルトガルのコスタ前首相(中道左派)のEU大統領,エストニアのカラス首相(中道リベラル派)を後任に指名する方針で合意。主要人事が親EUの議会主流派を軸に進められたことにメローニ氏やハンガリーのオルバン首相ら右派が反発した。首脳らが必ずしも一枚岩でないことが示されたことで,早くも欧州議会選挙後の不安要素が露呈した。ロイター通信によると,メローニ氏は委員長指名の採決を棄権,大統領と外相の指名には反対したとされる。また,オルバン氏も委員長の人事案に反対,外相の採決を棄権したという。メローニ氏は自身のX(旧ツイッター)への投稿で「国民と選挙中に国民から示された意見を尊重して反対を決めた」と説明した。

 7月の欧州議会で過半数の賛成を得て3氏は就任することになる。今のところフォンデアライエン氏が所属する中道右派「欧州人民党(EPP)」,中道左派「社会民主進歩同盟(S&D),中道リベラル「欧州刷新(RE)」など親EU派が705議席のうち420議席を占めているので,承認される可能性が高いものの,採決で新EU派議員の造反が予想されるので予断を許さない。

 今後,新たな連携などの多数派形成が模索される。フォンデアライエン氏は安定的なEU運営を進めるため,メローニ氏が所属する欧州議会の右派会派「欧州保守改革(ECR)」との協力を模索するとしたが,同委員長を支援する中道左派S&D,RE,「緑の党・欧州自由連盟(Greens/EFA)」などは支持を取り下げると表明。中々,一筋縄では行かない。

 EUの議長国が7月1日,ベルギーからハンガリーに引き継がれた。任期は今年12月末の半年間。この時期には,フォンデアライエン氏の続投や他の欧州委員が欧州議会の投票で決まる。また,今後5年間の次期執行部の基本方針や政策が公表され,協議されていく重要な時期だ。

 強権主義的なオルバン氏は,ロシアに融和的で,ウクライナのEU加盟やEUのウクライナ支援に反対の立場だ。オルバン氏は極右など右派勢力との連携を強め,中道右派や中道左派の主流派に対抗するよう呼びかけている。影響力を強めるメローニ氏の動向に加え,オルバン氏の一挙手一投足も不安要素である。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3482.html)

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