世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
日本は居住し就労したい国・観光で訪問したい国:ASEAN有識者意識調査
(亜細亜大学 特別研究員・ITI客員 研究員)
2024.06.17
シンガポールの東南アジアを専門とするシンクタンクであるISEASユスフ・イシャク研究所が実施したASEANの有識者意識調査2024によると,ASEANにおける日本の経済的影響力と政治的戦略的影響力は非常に小さい(注1)。東南アジアで最も経済的影響力のある国は中国という回答が最も多く59.5%だったが,日本という回答は3.7%に過ぎない。最も政治的・戦略的影響力がある国も中国で43.9%だが,日本は3.7%である。一方,日本の信頼度(グローバルな平和,安全,繁栄,ガバナンスに貢献するために正しいことをする国として信頼するか)は信頼する(「非常に信頼する」と「信頼する」の合計)という回答が58.9%で米国やEUなどを抜いて最も高い。中国の信頼度は24.8%であり,「経済的影響力は最大だが信頼度は低い」中国と日本は対照的である。
日本への信頼度が高い国は,フィリピン(82.3%)で群を抜いて高く,ベトナム(72.0%),タイ(65.1%),カンボジア(61.9%)などとなっている。フィリピンとベトナムは中国と南シナ海の領域問題で対峙している国であり,海上法執行能力の強化で日本の支援を受けている。カンボジアは中国と経済関係を深めている親中国国家であるが,中国への信頼度は31.8%と日本より低くなっている。
日本を信頼する理由は,「国際法を遵守・擁護する責任あるステークホルダー」が36.5%,「グローバルリーダーシップを発揮する経済的な力と意思がある」が27.7%,「日本を尊敬し文明と文化を称賛する」が21.1%である。
2024年調査から「居住し就労したい国はどこか」という質問が加わっている。日本は「居住し就労したい国」で,ASEAN加盟国(22.4%)に次いで第2位(17.1%)である。ASEANの有識者の調査であり,ASEANが多いのは当然であるが,日本が第2位なのは注目に値する。ちなみに第3位は米国(15.9%),第4位は豪州(12.0%)である。中国は4.8%となっている。調査対象者は「高度人材」であり,ASEANの高度人材の日本への留学や就労にさらに力を入れるべきであろう。「休暇に訪問したい国」では,日本は30.4%で第1位である。第2位はASEAN(16.2%),第3位は韓国(10.3%)である。日本という回答が多いのは,タイが52.7%と過半を占め,フィリピンが48.8%,インドネシアが30.6%などである。
日本に対する高い信頼は極めて貴重な日本の資産であり,ソフトパワーである。①軍事大国にならない,②心と心の触れ合う関係を構築する,③日ASEANは対等なパートナー,という福田ドクトリンをASEAN外交の原則とし,経済協力,技術移転,雇用拡大と人材育成,社会貢献など受入国の経済社会への貢献と共存共栄に官民で地道に努力してきた。近年は,ASEANと連携し自由,民主主義,基本的人権などの普遍的価値の定着,拡大などに努力し,力ではなく法が支配する自由で開かれた海洋を守るとともにルールに基づく自由な経済秩序を東アジアで維持するなどの取り組みを行ってきたことが評価されたといえる。日本に対する信頼を維持するとともに次の50年に向けて友好と協力,ミドルパワーとしての連携をさらに推進することが課題である(注2)。
[注]
- (1)SEAH, Sharon et al. The State of Southeast Asia 2024 Survey Report. ASEAN Studies Centre, ISEAS-Yusuf Ishak Institute. April 2, 2024.
- (2)具体的な協力については,清水一史(2023)「日ASEAN友好協力50周年と10の提言」(世界経済評論インパクト,No.3225)が参考になる。
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