世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
中国・三中全会で何が語られるのか
(亜細亜大学アジア研究所 教授)
2024.06.17
長らく先送りにされていた中国共産党の「第20期中央委員会第3回全体会議(三中全会)」が7月に開催される。旧来のスケジュールなら,党大会から1年後(2023年秋)だが,何のアナウンスもないまま年を越し,今年4月末にようやく7月の開催が発表された。
注目される三中全会で何が打ち出されるのか,5月23日に山東省済南市で行われた習近平総書記主宰の企業・専門家座談会がその大きな手がかりとなる(同座談会を伝える官製メディアもそのように伝えている)。習氏主宰の座談会形式では過去,民営企業座談会(2018年11月),企業家座談会(2020年7月),経済社会分野の専門家座談会(2020年8月)の例がある。それぞれ,米中通商戦争の勃発,コロナ禍での企業活動支援とサプライチェーン再編(双循環戦略),五中全会開催前の長期経済展望(第14次五ヵ年計画),といった背景があった。
党大会や中央委員会の主旋律となる重要講話がその前打ちとして党学校やこうした座談会の中で語られることは珍しいことではないが,今回は北京ではなく山東省視察とセットで行われた。山東省に込められたメッセージは何なのか。山東省には習主席が唱える「中国式現代化」のエッセンスが詰まっていることが報道から読み取れる。創新,エコ低炭素,質の高い発展,高水準の対外開放,新質生産力,現代化産業体系,食糧安全,海洋資源,文化強国といったキーワードである。
山東省は全国の6分の1に相当する3500㎞に及ぶ海岸線を有するが,主席が座談会前に視察した日照港は年間貨物取扱量が世界第7位(5億トン)に躍進した世界初のパラレルオープン型全自動化コンテナターミナルで,伝統産業の自動化,スマート化,デジタル化を実現した習主席のお気に入りだ。
座談会に呼ばれたのは企業家6名,学者3名だが,企業家は国有,民営,外資,香港資本,小巨人(発展ポテンシャルのある創新型中小企業),個人経営から各1名とバランスがとられた。注目されたのは周其仁・北京大学教授である。米国留学経験のある周教授(1950年生)は市場派,右寄りと称されることの多い経済学者で「国進民退」の流れになってからは忘れられた存在だった。発言内容は報道されていないが,習主席の考えと相容れないはずの周教授参加したことで,大きな軌道修正が行われるのではないかとの観測がネット上で流れたがすぐに削除された。あまり深読みする必要はないのかもしれない。
三中全会のメインテーマは「改革の全面深化」「中国式現代化」のようであるが,党の重要会議は須らく習主席の権威付けである。2013年の三中全会で謳った「改革の全面深化」以来実践された大小さまざまな成果をことさら誇示し,礼賛するものとなるのだろう。海外から注目される不動産対策など景気浮揚に向けた個別の政策が三中全会で打ち出されることはまずない。あえて目新しい内容を付け加えるとすれば,「人民の幸福追求」が強調されることか。会議を通じて最も注視すべきは,海外から向けられる懸念と三中全会の方向性がどの程度かみ合っているかという点にあるように思われる。
なお,山東省の座談会に李強首相の姿はなく,首相はお隣の河南省鄭州市で夏収穫穀物に関する農業視察を行っていた。首相は5月27日の政治局会議にも出席せず,ソウルで日中韓首脳会談だった。同政治局会議では「中部地域の台頭加速を促す政策措置」や「金融リスク防止・解消に関する問責規定(試行)」いったテーマが首相不在の中で審議された。李強首相は国務院の仕事はこなしているが,党主導で国務院自体の重要性が低下する中,外交での露払い的な仕事が増えている。
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