世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3352
世界経済評論IMPACT No.3352

グローバルポートフォリオを図る台湾企業

杉田俊明

(甲南大学経営学部 教授)

2024.04.01

 この3月は台湾で出張していた。中国の海警局の船が,台湾側が定める台湾の離島,金門島周辺の禁止・制限水域に侵入し,連日航行していた時期と重なっていた。マスコミは大々的に報道していたため,緊張感はあったが,社会生活や仕事において,現地の方々は中国の動きを冷静に予見しているかのように,表立っての反応は薄い。

 一方,企業活動の実態をみると,日本でよく伝えられているような「脱中国」の動きは台湾でもみられている。2023年の台湾から中国への直接投資は前年比4割減,と伝えられているなかで,世界から注目されているTSMC(台湾積体電路製造)は,中国での製造拠点を据え置き,ここ数年,本拠地台湾で新規投資を行うと共に,アメリカ,日本,ドイツなどで大規模な投資を行い,事業立地のポートフォリオを図っているのは周知の通りだ。

 しかし,グローバルビジネスへの対応とサプライチェーンの再構築において,中国をよく知る台湾企業は,前から動いていた。ここでは台中に本社をもつ,喬山健康科技集団(ジョンソンヘルステック,JOHNSON)のケースを紹介し,同社が行っているグローバル展開の推移をみてみよう。

 同社は1975年設立当時,鋳物工場であった。アメリカ企業からウェイトリフティング機器用のバーベルプレートなどを受託生産するのをきっかけに,フィットネス機器の製造に関わるようになった。後に,アメリカのフィットネス機器企業を買収し,関連販売会社や小売り会社を買収したり,ウェルネス部門を設立したりして,短期間で,関連機器製造企業から,生産,流通,販売の全段階を保有する,フィットネス事業における垂直統合型企業へと発展し,業界の大手に伸し上っていた。

 2001年,同社は中国に進出し,製造と現地市場参入のために現地に複数の子会社を設立していた。しかし,2010年に中国での事業を統合・再編し,2013年にはベトナムで製造会社を設立し,生産拠点の分散を図るようになった。

 そして,同社はこれまで主要市場としてきたアメリカの市場を中心に,より広いグローバルマーケットに目を向き,欧州,アジアなどにも販売やサービス拠点を設立していた。いまや同社は約30カ国に完全子会社を有し,世界では約500店舗を有するほど,グローバル的な販売ネットワークを構築してきている。

 2006年,同社はウェルネス部門を設立し,マッサージチェアなどの開発・生産を始め,日本との関りを持ち,2011年,業界初の四つマリ式マッサージ機を開発した大阪に本社を置くフジ医療器からグレーターチャイナでの販売権を獲得していた。そして,2019年にフジ医療器を部分買収し,2022年にその完全買収に成功していた。その後,自社日本法人や事業の一部をフジ医療器と統合し,日本での展開にとどまらず,フジ医療器の技術やブランドを活用したグローバル展開を図っている。

 このように,台湾と中国という,文化や距離の近さ,言語面の利便性などがあるなかでも中国ビジネスに固執することなく,製造拠点の分散を図ると同時に,同社はグローバル市場における自社商品・サービスへの需要を追求し続けている。

 いま,同社はアメリカ市場で自社の地位を確立し,日本市場での基盤を強化しようとしている。そして,台湾,中国,ベトナム,日本,アメリカという,グローバルポートフォリオを構築してきた5つの生産拠点から,グローバルに点在する多くの販売会社や小売店を通じて自社の製品やサービスを提供している。産地,市場,製品,サービスのポートフォリオを意識した挑戦,というのが同社の特徴といえよう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3352.html)

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