世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3272
世界経済評論IMPACT No.3272

ASEANが米国多国籍企業のアジア最大の進出先

石川幸一

(亜細亜大学 特別研究員・ITI客員 研究員)

2024.01.22

 米国商務省によると,2021年末の世界の米国多国籍企業の現地子会社(米国側過半出資)は3万7,656社である(注1)。アジア太平洋地域には8,639社が進出している。国別にみると中国が1,956社で最大であり,豪州が1,170社,シンガポールが1,011社,日本が789社となっている。ASEAN加盟6か国を合計すると2,080社となり中国を抜いてアジア最大となる。ASEAN進出企業数は2009年に1,271社であり,2021年にほぼ倍増している。ASEANではシンガポールが1,011社で5割を占め,続いてマレーシア301社,タイ268社,インドネシア210社,フィリピン209社,ベトナム81社となっている。世界では英国が4,359社,カナダが2,507社,オランダが2,336社となっている。EUは12,443社と群を抜いて多い。これらのデータから2021年は米中対立が激しくなっていた時期で,①中国は米国多国籍企業の主要進出先ではあるものの②加盟国を合計すると,ASEANが中国を超えアジア地域最大の米国多国籍企業の進出先となることが判る。

 総資産で米国多国籍企業の状況をみると,ASEANが1兆4,685億ドルとアジアで最大であり,日本が1兆701億ドル,中国が5,271億ドルとなっている。世界ではEUが10兆5,633億ドルと桁違いの規模であり,英国は6兆5,134億ドル,オランダが3兆1,059億ドルとなっており,ASEANはカナダの1兆4,402億ドルを上回っている。販売額でもASEANは7,566億ドルで中国の4,715億ドル,日本の2,783億ドルを上回りアジアで最大である。世界では,ASEANはEUの2兆1,498億ドルに次いでおり,英国の7,325億ドル,カナダの6,835億ドルを超えている。

 雇用創出数では,ASEANは96万7,400人であり,アジアではインドの147万6,000人,中国の121万9100人に続いて第3位となっている。日本は35万7,300人である。世界では,EUが279万5,100人,メキシコが145万1,400人,英国が132万8,000人,カナダが118万7,000人となっている。ASEANの中ではフィリピンが27万6,900人ともっと多い。

 ASEAN主要国での米国多国籍企業の雇用を産業別にみてみよう。インドネシアは製造業が56.2%(うち食品が14,5%)を占め最大である。マレーシアは製造業が73.0%を占め,コンピューターおよび電子産業が54.4%となっている。フィリピンはサービス業が77.7%と大きなシェアをもち,プロフェッショナルサービスなどが25.4%,その他が32.6%である。製造業ではコンピューターおよび電子産業が12.2%で最大である。シンガポールは製造業が42.6%を占め,コンピューターおよび電子産業が17.6%となっている。サービス業では情報サービスが16.5%で最大である。タイは製造業が60.6%を占め,コンピューターおよび電子産業が24.1%となっている。ベトナムは製造業が83.4%と極めて大きな比重を占めている。米国多国籍企業のASEANでの事業は,フィリピンを除きコンピューターおよび電子産業を中心に製造業が最大となっている。

 このようにASEANはアジアでの米国多国籍企業の海外活動で中国や日本を上回る重要性を持ち,世界的にみても大きな進出先であることが判る。ASEANへの外国直接投資では米国は最大であり,米国のASEANへの直接投資はASEANの経済だけでなく,米国経済にも極めて重要となっている。貿易ではASEANと中国はともに最大の相手国となっており,チャイナ・アセアンと呼ばれる経済の一体化が進んでいると論じられているが,投資ではASEANと米国の経済関係がより緊密化しているのである。ASEANは米中対立の中で「どちらにも与しない」中立を堅持しており,その背景には中国および米国の双方との経済関係の緊密化と相互依存関係の進展があることを見ておくべきである。

[注]
  • (1)Bureau of Economic Analysis, U.S. Department of Commerce, Activities of U.S. Multinational Enterprises, November 17, 2023. 商務省は米国側出資比率10%以上の米国多国籍企業の総資産(世界で54兆5,312億ドル)と総雇用数(2,952万人)の産業別数値を公表しているが,企業数および国別データは発表していない。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3272.html)

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