世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
AIIBとアジア金融市場の将来:人民元経済圏の可能性を兼ねて
(福井県立大学経済学部 教授)
2016.01.11
2015年にはAIIBの設立と人民元のSDR採用が世界から注目されている。そのいずれも,中国の金融力の強化及び国際社会における人民元の存在感が高まったことを反映し,人民元の国際通貨への第一歩である。以下,それと関連して,中国金融業の発展,AIIBのアジア金融市場への影響,人民元経済圏の可能性について述べたい。
1.強まりつつある中国の金融業
AIIB設立の最大の背景は中国の金融力の強化である。中国はGDP世界第2位の経済力を背景に,定期預金,貯蓄預金,国内外貨預金からなっている準通貨(M2)のサプライは1990年の1203億ドルから2013年の12兆616億ドルへと23年間で100倍増加した。日本と比較すると,1990年時点では,中国の準通貨サプライは日本の3.8%に過ぎないが,2000年時点では,日本の39.8%に上昇し,2013年には日本の2.4倍に逆転した。
この資金供給量の拡大に伴っての大きな変化としては,中国における銀行業の大型化と国際化が急速に進展したことである。銀行業の経営規模を示す指標として総資産をみると,中国銀行の総資産は2001年の20.8兆人民元から2010年には96.2兆人民元,2013年には152.4兆人民元に上った。これにより,中国では世界トップレベルのメインバンクが誕生し,世界金融市場での「チャイナマネー」は存在感を増している。
銀行ベースで中国銀行の規模を見ると,2014年には中国工商銀行,中国建設銀行,中国農業銀行,中国銀行など,いわゆる「中国四大メインバンク」のいずれも,世界銀行ランキングのトップ5にランクインされている。
このような金融力の増加に伴って,1994年には国務院に直属する国家開発銀行(CDB)を設立した。CDBは国家の政策性開発金融機関として,主な投融資先は道路,発電所,鉄道の建設及びその他のインフラ整備,エネルギー開発,農業水利建設などであるが,2000年以降,中国の西部,中部,東北など内陸地域の開発にともなう巨大なインフラ整備への資金需要に合わせて,事業規模は急拡大し,2014年末現在,債券発行残高は63.5兆人民元(約9.9兆ドル)で,融資残高は日本国際協力銀行(約879.8億ドル)の14倍に上がる7.9兆人民元(1.2兆ドル)となっている。さらに政策性開発金融の中核的役割を担うADBは中国と外国との金融協力を推進する主役となり,今回のAIIB設立の母体でもあった。
2.アジア金融資本市場への影響
東アジアでは,活発な貿易,投資活動と比べ,金融市場の整備が遅れている。この東アジアでは2000年以降,「アジア通貨金融危機」の原因とされる「ダブルミスマッチ」を解消するために,チェンマイ・イニシアチブ(CMI),アジア債券市場育成イニシアチブ(ABMI),ASEAN+3債券市場フォーラム(ABMF)などを通じて,金融市場の整備に取組んできたが,現状としては,債券の発行体及び投資家の増加,各国の経済発展段階の相違に応じた市場インフラと法制度の整備など,数多くの課題が残されており,債券市場の整備は,「ダブルミスマッチ」の解消や「アジアの貯蓄を域内の投資需要のファイナンスに有効活用する」というABMIの目標実現にはまだ程遠いといわざるを得ない。
将来,ABMIの枠組みの元で,アジア各国での債券発行を拡大すれば,長期資金の調達による「ダブルミスマッチ」の解消や金融市場における制度や法律の整備を促進し,アジア債券市場の育成やクロスボーダー資金調達に寄与すると期待されているが,AIIBの発足により,アジアでの債券の発行が拡大され,それはアジアインフラ整備への長期資本の供給が拡大されるだけでなく,アジアでの各国の金融協力,金融資本市場の拡大と活性化にも寄与するであろうと期待できる。
3.人民元経済圏の可能性
このAIIBの設立とは別に,人民元のSDR構成通貨への採用決定及び中国のIMFへの出資比率の引上げは国際社会における人民元の存在感を高め,人民元が国際通貨になるための重要なきっかけとなっている。このことはAIIBとは直接関係はないが,AIIBの追い風となるのは紛れもないことである。即ち,人民元の国際化に伴って,AIIBによる人民元建て国債の発行や元建ての融資が増加すると見込まれており,人民元は国際通貨としての重要性がさらに高まるであろう。
現在,人民元は真の国際通貨になるには,資本取引の自由化,為替レートの安定,国内金融制度の整備など,数多くの課題を抱えてはいるが,20~30年という長期間で展望すると,中国の経済力の増強及び国内の金融改革に伴って,中国の世界経済への影響力が高まり,アジアでは人民元経済圏形成の可能性が高いであろう。
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