世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.557

人民元の国際化は本物か

中條誠一

(中央大学経済学部 教授)

2015.12.14

 IMFでは,来年(2016年)10月から中国の人民元をSDR(特別引出し権)の構成通貨に加えることになった。SDRはIMFが創出した公式の準備通貨であり,その価値はこれまでドル,ユーロ,ポンド,円で構成される通貨バスケットで決められてきたが,そこに人民元が加わることになった。

 SDRの構成通貨入りを強く望んできた中国政府にとっては,IMFから国際通貨としてお墨付きを得たといえる。しかし,それは多分に政治的象徴としての意味合いが強く,実質的に人民元が国際通貨としての機能を果たしているかというと疑問が残る。

急速に進展した人民元の国際化

 そもそも,人民元の国際化とは,人民元が中国と外国および外国同士の貿易取引や資本取引に使用されたり,人民元建て金融資産として外国人によって保有されることをいう。

 実物経済面で存在感を増すとともに,中国では周辺国との貿易で人民元が使用されるなど,人民元の国際化への窓が開かれた。しかし,本格化したのは2009年7月に貿易でクロスボーダー人民元決済が開始されたことによる。以来わずか4年ほどで,中国の貿易の約22%に使用されるなど,経常取引での進展が著しい。

 中国の貿易は世界第1位であり,そこで人民元が使用されるとなると,その金額は大きい。このため,決済通貨として日本の円を上回ったことを背景に,第3位のSDR構成通貨となったといえる。さらに,貿易といっても中国側の輸入での使用が多いため,それによって人民元が海外に流出し,香港を含む海外でオフショア人民元取引が目立ってきたことも事実である。

内外市場を遮断したままの管理された国際化

 とはいえ,国際化の実態は日本の円にも及ばないといってよい。日本の円の場合は,外人投資家による大量の日本株取得,外国政府による外貨準備としての円保有,国際債市場でのユーロ円債,東京債券市場での円建て外債,政府の円借款,邦銀による円建て融資など,資本取引において一定の規模で円が使用されたり,保有されているが,この面では人民元はまだまだ見劣りがするからである。

 中国では,内外の資本取引自体が厳しく規制されており,そこでの人民元の使用は対内・対外直接投資など極めて限定的である。つまり,人民元の中国本土と海外の交流には厚くて高い壁が存在し,極めて小さい風穴があいているに過ぎない。したがって,外国人や企業が貿易などで入手した人民元を運用したり,それに必要な人民元を調達しようとしても,1国2制度の香港は別にして中国本土ではできない。内外金融市場を遮断し,かつ中国政府の管理の下での人民元の国際化という特異な姿というのが実態である。

真の人民元の国際化に向けて

 これでは,真の国際通貨とは呼び難い。それもこれも,実物経済面で経済大国に躍り出たとはいえ,中国の金融市場は未発達で脆弱なるが故に,性急な資本取引の自由化や人民元の国際化は市場の混乱や危機を招来しかねないからである。現在,中国政府は金利の自由化など金融市場の改革を推進している。その改革を推し進め,重厚かつ効率的な金融市場を育成するとともに資本取引の自由化,そして真の人民元の国際化を図るというのが基本方針に他ならない。今回のSDRの構成通貨入りを機に,その戦略が推進されることが期待される。

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