世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3195
世界経済評論IMPACT No.3195

ロシアの主要穀物生産と輸出量の大変化:寒冷化論議の前提

本山美彦

(京都大学 名誉教授・国際経済労働研究所 所長)

2023.11.20

 2022年2月24日に開始されたロシアのウクライナ侵攻によって,世界の食料危機が危惧されている。主要食料の二大輸出国であるロシアとウクライナの輸出が停滞してしまうのではないかという観測が食料の国際市場に混乱をもたらしているからである。

 しかし,これとは正反対に,ロシアの食料輸入の巨大化が食料危機を生み出しているという理解が,いまから40年も前の1980年代には一般的なものであった。

 FAOの年報"Food and Agriculture Statistics"の数値によれば,以下の点が指摘される。

 1970/71年時点で,日本の穀物輸入は1,530万トンと世界全体の輸入(1億0,630万トン)の14.4%を占めて突出していた。当時のソ連は90万トンと世界全体の0.8%に過ぎなかった。

 ところが,1980/81年になるとこの数値に大変化が起こった。ソ連の輸入が3,490万トンと10年前の38.8倍と激増したのである。これは,世界全体の輸入額(2億0,880万トン)のうち,16.7%という大きなシェアであった。日本も2,410万トンと10年前の輸入量から1.65倍に増やし,世界シェアは11.5%であった。世界全体も10年前より1.96倍と2倍近くも増やした。

 ところが,それからさらに40年後,ロシアは,かつてのソ連に属していたウクライナと並んで,世界でも有数の大穀物輸出国になっている。

 農林水産省が毎月発行している「食糧安全保障月報」2022年1月号に掲載された農林水産政策研究所の調査によると,ロシアの小麦生産量は7,600万トンで世界第4位,大麦1,900万トンで世界2位。ウクライナも小麦2,600万トンで世界7位,大麦は830万トンで世界5位であった。

 トウモロコシで見ると,ウクライナが3,300万トンで世界6位,ロシアは1,300万トンで世界11位(データは2018/19年度~2020/21年度の3年度平均)。トウモロコシでは生産適地の関係でロシアはウクライナよりも,生産量は少ない。

 麦の輸出量で見ると,ロシアは図抜けた位置を占めている。小麦は3,600万トン(2018~21年度平均)で世界第1位,生産量の4割以上を輸出へ振り向けている。大麦も512万トンで世界2位となっている。

 また,ロシアは,2014年のクリミア併合に反対する欧米の対ロシア経済制裁に対抗して,欧米からの食肉や乳製品,果実など食品の輸入禁止措置を発動した。経済制裁は,大幅なルーブル安を引き起こしたが,結果的にそれがロシアには幸いした。食品の自給率が高まっただけでなく,ルーブル安によって,農水産物の輸出が伸びた。貿易赤字は大幅に縮小し,ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin,1952年~)大統領は2018年の大統領令で2024年までに農産物や食品の輸出額年間450億ドル達成を目標に掲げた。2017年には216億ドルだったのが,2020年には300億ドル近くに増えている(長友謙治[2020])。

[参考文献]
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3195.html)

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