世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
景気後退の兆しが見え始めた米国経済
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2023.11.13
失業率上昇、総労働時間減,総賃金横這い
11月3日発表の10月分米雇用統計は,全般的に景気鈍化を示す内容であった。失業率は3.9%と,前月の3.8%から上昇しただけでなく,4月の3.4%から半年で0.5%上昇した。一定期間失業率が継続的に上昇しているという点で,雇用の変調は明らかだ。
労働投入量の指標である民間非農業部門の総労働時間(就業者数×平均労働時間)は,前月比0.3%減少した。前年同月比では+0.9%と,2021年3月以来の低い伸びとなった。過去の事例を見ると,景気後退入りした2008年1月時点で前年同月比+0.9%だった。総労働時間に時間当たり平均賃金を掛け合わせた賃金総額は,前月比横ばいに留まった。前年同月比は+5.0%と,これも2021年3月以来の低い伸びとなった。総労働時間は実質GDPと,賃金総額は名目GDPと比較的強い相関がある。
ISM景気指数は製造業,非製造業とも低下
10月のISM(全米供給管理協会)景気指数も,景気鈍化を示すものとなった。製造業指数は46.7と9月の49.0から低下し,強弱の分岐点を示す50を12か月連続で下回った。指数の水準も,50を連続して下回る期間も,過去の景気後退期の直前に匹敵するものになっている。一方,非製造業指数は51.8と9月の53.6から低下したが,10か月連続で50を上回っており,非製造業の景気は製造業と比べると,相対的に堅調なようだ。ただ,非製造業指数は製造業指数に遅行する傾向がある。また,過去の事例を見ても,景気後退入りする前に非製造業指数が50を下回ることはあまりなかった。
雇用情勢や企業景況感に陰りが見える中で,今後の注目点は,個人消費支出を中心とした需要面にいつ,どの程度影響が現れるかだろう。7-9月期には,実質個人消費支出は前期比年率換算+4.0%と堅調だった。個人貯蓄率が5月の5.3%から9月には3.4%まで低下したことは,消費支出の伸びが所得の伸びを上回っていることを示している。賃金総額の鈍化につれて個人所得の伸びも鈍り,貯蓄率の低下が止まれば,個人消費支出の伸びも鈍る。
利上げ打ち止めの公算が高まる
10月31日,11月1日のFOMCでは,9月19,20日のFOMCに続いて利上げが見送られたものの,パウエル議長は今後の追加利上げの可能性を否定しなかった。9月時点のFOMC参加者経済見通しが,年内もう一度の利上げを予想していたことを踏襲したと言える。しかし,このまま景気が持ち直さない限り,利上げ打ち止めになりそうだ。
ただ,利上げが打ち止めになり,さらに早晩利下げに転じたとしても,米経済のソフトランディングの公算が高まるとは言えない。過去には政策金利が低下に転じた後に,景気後退入りしていることが多い。1990年8月からの景気後退のケースでは,政策金利は1989年6月から下がり始めていた。2001年4月からの景気後退では政策金利は2001年1月から下がり始め,2008年1月からの景気後退では政策金利は2007年8月から下がり始めた。むしろ,利下げ機運が高まることが,景気後退の兆候とも捉えられるだろう。
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