世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
継続可能な賃上げ実現のための改革提言:社会変化に併せ従来構造からの転換を!
(SPCコンサルティング株式会社Labo 所長)
2023.11.13
本稿では,持続可能な賃上げを実現するための事業運営上の改善点を検証し,法に準拠した社会保障制度に関し医療進化発展の視点で「健康診断と個人情報管理」に焦点を当てながら社会で新しく改善すべき点について提言する。
1.勤務者の健康管理
労働安全衛生法では,雇用側の義務として勤務者の定期健康診断が実施されてきた。2016年からは経産省が「健康経営」なる評価軸を導入,企業はこれに則り評価を高めながら生産性向上を図ってきた。他方,個人の健康管理の在り方は医療の発展と共に大きく変わり,近年は予防医学にシフトしている。具体的には遺伝子解析が加わり,家族性遺伝病や遺伝子変異由来の希少病は早期判定が可能となるなど診断手法が劇的に進化した。それに伴い個人は健康に関する個人情報の取り扱いについて,どこの誰と情報共有すべきか,新たに検討する必要が出てきている。
2.健康管理情報の取り扱い
毎年すべての勤務者は,勤務先や自治体から健康診断の機会提供を受ける。万一結果が悪ければ,医療保険の下で更なる検査や治療を受けることになる。健康経営では生産性向上を図る目標があるため,健康事由がある勤務者には人事評価で差別が及ぶ懸念が出ている。例えば認知症の初期症状であるMCIの診断プロセスでは,遺伝子分析で発症リスク確率を推計することが可能である。その結果は勤務先にも共有され,個人が不利益を被ったとする失敗事例が既に社会では発生している(参照:東京新聞記事,2023年3月29日)。医学データでは40代以降に疾病増加傾向となるため,中高年勤務者は健康に関する個人情報には細心の注意を払う必要がある。
3.新しい健康管理体制と情報管理
要は個人の健康情報が外部に漏れるとリスクと損害を被ることになるため,40代以降の勤務者は各自で情報管理できるように社会の営みを変える進言を行ったほうがいい。他方,勤務先でも個人情報の取り扱いには神経を使うため,健康診断費用は賃金計上とし,その結果は自己管理するものと割り切ったほうが双方にメリットがもたらされる。
4.一人あたりの健康診断費用
個人の多くは勤務先払いである健康診断費用を知らないため,下記の通り,都内での概算費用を確認した。
- 一般健康診断費用一人あたり:8000円~10000円
- 中高年対象健康診断と各がん検診費用一人あたり:55000円
5.扶養家族の健康管理費用
多くの日本企業では扶養家族の健康診断費用も負担しているが,労働管理衛生法では対象外である。共働きが増えているため,今後,健康診断費用は誰をどこまでカバーすべきか検討の余地がある。
6.他方,健保組合での情報運用と管理
彼らのサイトを見ると,会員情報DX化と記載が見られるため,健保組合からも個人情報流出の懸念がある。報道によると,コロナ期以外,健保組合は赤字経営が続いておりDX化で収益改善を見込む意図は十分理解できる。経費内訳では65歳以上の高齢者医療負担が全体の4割を占めており,近年は先端医療導入により延命の恩恵は受けられるも,コストは上昇,医療保険料率は10%以上に見直し,今後も個人の費用負担は増え続ける。全国1383組合(主に大企業勤務者とその家族が加入者2824万人)のうち4割が赤字。2022年は2805億円の赤字計上,2023年は5623億円の赤字計上(参考資料:日本経済新聞電子版,2023年4月23日)
7.まとめ
昭和の時代から日本企業は,従業員に対して手厚い社会保障と福利厚生を提供し続け,長期勤務者に対しては退職金支払いをし,60歳以上の雇用延長も行うなど「社会の福祉事業者」としての役割を担ってきた。ただし財務諸表の数字を読むと純利益率は数パーセントと高くない。その経営環境にありながら,持続・継続可能な賃上げを要求されることは無理難題と感じている。今回はその改善の糸口となるように,医療進化発展の視点から「健康診断と個人情報の取り扱いの刷新」を提言としてまとめた。社会では既に共働きが一般化するなど社会環境が大きく様変わりしており,今後は社会保障制度の在り方,福利厚生の提供法を改善し,経営コスト抑制を図りながら,賃上げの持続継続を実現可能なものとしていただきたい。
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