世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2976
世界経済評論IMPACT No.2976

エネルギー需給 波乱の予測

武石礼司

(東京国際大学 特命教授)

2023.05.29

エネルギー需給の不安

 世界のエネルギー需給をめぐって,今後,さらに大きな波乱が生じる可能性が高まっている。エネルギー供給量が確保できるか,あるエネルギー源が供給できる場合でも,その需要の方が急減することも生じ得る状況にある。しかも,価格が高騰と急落を繰り返す可能性があり,安定した価格取引ができない場合は,供給が滞り,かつ消費側が高騰した価格を前にして大混乱に陥る可能性もある。

 そもそもコロナの世界的な蔓延と長期化で各国経済が多大のダメージを受けており,いずれの国の経済も弱体化し,供給網の回復も遅れている。

 その上,2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻で,ロシアに対する経済制裁が発動され,エネルギーを始めとする物流ルートが大幅に変わり,あるいはストップし,特に欧州では日々必要となるエネルギー供給が大幅に不足し,かつて無かった価格高騰が生じた。

 以上の状況に加えて,EU諸国,米国バイデン政権および世界の環境NGOが中心となって「脱炭素」を強く要請しており,パリ協定,IPCC報告書等,化石燃料の消費を特に先進国において早急に抑制・禁止しようとの要請が高まっている。世界のエネルギー需給に関しては,大幅かつ多様な制約要因が働いている。

世界のエネルギー需給の状況

 世界全体としての石油消費量は着実に増大を続けている。顕著に年々石油消費量が減少し始めているのは日本と欧州諸国の一部のみで,他の諸国では増大傾向にある。

 天然ガスについては,多くの国で消費量が増大し続けており,2011年から2020年の平均で見ると世界の需要の伸びは年率2%に達している。今後も,当面はガス需要が増大を続けると予測できるが,需要増を賄うためには新規のガス田の開発と,液化天然ガス(LNG)プラントの建設が必要で,世界各地でプロジェクト実施が進行中である。

 石炭消費量を見ると,年々大幅な減少を始めた先進国側と,中国,インドのように石炭消費量の増大を続ける多くの発展途上国側というように,方向がまったく異なった動きが世界で生じている。

 次に,再生可能エネルギーの導入量を見ると,化石燃料を代替するほどの水力発電量となっている国はノルウェー,カナダ,ブラジルなど限られている。大規模な水力開発が終了した日本のような国もある。

 風力発電の比率が高い国は,風況が良い諸国(デンマーク,ドイツなど)である。また,太陽光発電が大量に導入されている国は中国,米国,インドのように国土が広く日照に恵まれた地域がある国と,それから日本のように固定価格買取制度(FIT)で破格の条件を提示した国となっている(例えば日本の場合,2012年以降,太陽光発電の投下資金の即時償却を認め,20年間固定の高価格での買い取りを行い,そして当然,その分,電気代の値上げが行われた)。

中国への対応

 上記に加えて大きな不安定要因として権威主義諸国,とりわけ中国の動向が課題となる。共産党が独裁色を強め,国家安全法,国防動員法等,着々と自国企業(特に国営企業)の支援を強化しており,しばしば市場原則,商慣行を超えた国家主義に基づく規制が行われている。

 90年代以降,日本企業が相次いで中国に進出するのを追って,日本のエネルギー企業も中国に進出したところがあったが,中国では,特にエネルギー分野では,日本企業が商売をできる部分は限定され,中国進出後すぐに判明したのは中国でのビジネスの困難さであり,さらに撤退も困難な状況であった。こうして漸く撤退できるまで,駐在員の仕事は撤退の為に費やされることになった。

 中国からの撤退を決断する日本企業は今後も増えると考えられ,貿易・投資の面でも,またエネルギー政策の面でも,中国とのデカップリングの動きはさらに高まっていくと予測される。米国との対立を高め,市場分断を生じさせ,かつ一帯一路による多数の債務国を中国が生んでいることは,世界のエネルギー需給面から見て不安定要因である。

日本に求められる対応

 日本政府と大手マスコミの論調は,EUに倣った脱炭素優先,2050年のカーボンニュートラル達成を目指すものであるが,水素,アンモニア,バイオ燃料,メタネーション等,化石燃料を代替しようとしても,当面,1桁,2桁も高額であり,達成は容易ではない。日本として当面注力すべきなのは,脱炭素のための補助金支出よりも,自国の教育/基礎・応用研究分野に資金を出し,また,東南アジア,南アジア,アフリカ等の発展途上国との間の協力関係を深化しつつ,特にエネルギー利用のための技術と効率の向上を図ることである。こうした方策が世界のエネルギー需給の強靭化に資するとともに,途上国の経済成長と人々の暮らしの向上のための近道となると考えられる。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2976.html)

関連記事

武石礼司

最新のコラム