世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
G7広島サミット後の日本産業の課題
(元 日中産学官交流機構 理事長)
2023.05.29
G7首脳は東アジアの最前線で改めて意思統一をした
G7首脳会議では,岸田議長の下でウクライナ戦争への対処および中国への取り組みという大問題について,欧州と米国の意思統が一できたことが高く評価されている。
首脳会合準備の過程で主要先進国の多数の閣僚が数次にわたって東アジア最前線の日本で事前会合を開催し,最終的には首脳全員が広島に参集したことは西側自由圏の結束を東アジアに強く印象付けた。とくにバイデン大統領は困難を押してサミットに参加することによって米国が東アジアを最重要視していることを世界に強く印象付け,さらにQuad,日米韓首脳会談などを開催して東アジアの平和と安定を重視していることを明確にした。
首脳の原爆資料館視察,ゼレンスキー大統領の参加はG7の一体感を強固なものとし,G7のウクライナへの揺るぎない連帯と核不拡散の願い,東アジアにおいても「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」を守り抜く決意を世界に向けて示した。
陰の主役とも言われた中国については,対話を通じて中国と建設的かつ安定的な関係を築くという穏やかな基本方針で意見が一致した。特に台湾については,「表明済みの一つの中国政策」を含めてG7各国の基本的な立場に変更がないことを明示したうえで,平和的解決を促した。
広島サミットの機会に,インド,韓国,インドネシアなど8国首脳を招いたことも,G7が全世界を視野に置いていることを印象付けた。
中国の苦境が東アジアを変えている
中国では昨年来経済悪化が続き,青年層の失業率は20.4%にも達した。加えて上海ロックダウンで生じた強い政治不信もあって海外移住が広がり,さらには南米経由でアメリカに密入国を図る「走線人」が半年で6500人も出現したと報道された。中国企業の海外移転も常態化してベトナム,インドネシアなどASEAN諸国への移転が報道されるが,これとともに中国にとってASEAN諸国の重要性が高まっている。今年1−3月期には,ASEANは中国の最大の輸出先(16.9%)となり,中国の対米輸出依存度は低下を示した。
国際関係では,台湾統一問題,南・東シナ海での国際法無視の言動に対して米欧でも懸念が高まり,「対中防衛」準備が進んだ。これに対して,中国側では中国が包囲されたとの被害意識と敵対感情が高まり,中ロと西側自由圏とはさらに緊張が高まっている。
広島サミット後の日本産業の課題
1.中国との「建設的かつ安定的」関係を実現する
広島サミットは中国への若干の指摘をしつつも,基本的には中国と建設的かつ安定的な関係を構築する旨を宣言した。しかし面子を重視する文化の中国は反発して日本の駐中国大使に抗議したばかりか,スパイ容疑逮捕,外国企業への立ち入り捜査など報復措置と見られる事例も発生して,更に冷えた環境になっている。
今年はとくに中国からの日本企業誘致ミッションが増加しているが,政府間で対立していては企業間の順調な交流は望めない。しかし産業界の努力だけでは事態の改善には限りがある。中国との首脳レベルの交流を通して相互理解を深めてビジネスフレンドリーな環境を作り出す努力が期待されている。
2.ASEANをビジネスチャンスの場にする
インド太平洋の中心に位置するASEANは,最近は脱中国の投資受け入れもあって中国にとって最大の輸出先となり,これを反映して中国の外交もASEANを一層重視し始めた。今やASEANは世界の成長センターとなっており,日本企業はASEANとともに元気になる途を追及している。すでにRCEPが発足したが,日本は日ASEAN・EPA(包括的経済連携協定)のさらなる充実やIPEF,TPPへの参加誘致も含めてASEANとの関係強化に更なる努力が必要になっている。
3.新しい積極的な産業政策を実行する
この春中国は,電気自動車(EV)を主軸にして,日本を抜いて世界最大の自動車輸出国になった。バイデン政権もEV,半導体などの未来を担う産業に精力を傾けている。
米国はこれまで自由主義を強く標榜して日本の産業政策や「中国製造2025」を非難してきたが,今年4月にジェイク・サリバン大統領補佐官(安全保障担当)はG7広島サミットを前にして「新ワシントン・コンセンサス」と称して補助金を使った産業政策への大転換を宣言し,EV,半導体はじめその他の分野でも国内生産の推進を呼びかけた。そのうえ西側自由圏の同志国にも同調を促した。
米国と中国が国を挙げて重要産業の国内生産を推進する状況では,日本も国内産業の生存のために国産推進政策に全力を挙げざるを得ない。昨年すでに経済安全保障推進法が立法されたが,産業界の叡智も結集してさらに強力に産業を育成することが急務になっている。
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