世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
EU,対中政策を6月の首脳会議で議論:キーワードは「デリスキング」(リスク回避)
(駿河台大学 名誉教授・ITI 客員研究員)
2023.05.22
EUは,権威主義的な政策を推し進める習近平体制を警戒し,EUの結束を強化する動きを加速させている。欧州委員会は,来る6月のEU首脳会議において対中政策の再調整プランを提案する。EUは2019年3月に中国については「パートナーであり競争相手,体制上のライバルでもある」と位置付けている。パートナーとライバルのどの面を重視するかは,「中国の行動によって決まる」として,国際秩序への挑戦的な行動や経済的威圧を自制するよう求めている。
欧州委員会の再調整プランのキーワードは,米中対立のような「デカップリング」(切り離し)ではなく,「デリスキング」(リスク回避)である。つまり,中国とのデカップリングは現実的ではないとし,中国に軍事転用されかねない貿易や投資,再生可能エネルギーやデジタル分野での過度の対中依存度を下げるデリスキングが望ましいと考えている。
デリスキングという認識は,EUの経済大国ドイツでも強まっている。ドイツ政府は,再生可能エネルギー分野で太陽光パネルに必要な素材の世界生産の80%を占める中国に依存していることに危機感を強める一方,ドイツの自動車産業が中国市場に大きく依存していることにジレンマを抱える。
他方,フランスはこうしたリスクを理解しながらも分野によっては中国との経済関係を深めたいと考えている。本年4月,マクロン仏大統領が中国公式訪問した際,50社超のフランス企業のCEO(最高経営責任者)が同行し,エアバスの大型商談などを成功させている。
マクロン氏が中国訪問時の欧米メディアとのインタビューで,台湾問題を巡る米中対立から一定の距離をとるべきだと発言し,中国に融和的な姿勢を見せたことに対して欧米の対中強硬派から批判が相次いだ。期せずして,米国からの「戦略的自立」論者のマクロン氏の本音が出てしまった形である。
イタリア政府は2024年3月に期限を迎える中国との「一帯一路」構想に係る協定について,更新する可能性は非常に低いとの認識を示している。イタリアはG7(主要7か国)で唯一の一帯一路構想に参加しているが,期待した効果が出ていないとして失望感が強い。ただ,伊政府が更新を取止めた場合,中国が何らかの経済的威圧の動きに出るのではないか警戒している。
EU諸国間に温度差が見られるが,EUは,「中国が日増しに西側諸国とルールに基づく国際秩序への挑戦を強めている」としつつ,「貿易や経済,地球規模の課題でのEUと各国の利益に基づいて,中国に関与していく」として欧州の結束を強調する。EU首脳会議でどのような議論がなされるのか注目したい。
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