世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2829
世界経済評論IMPACT No.2829

アフリカの大干ばつへの対応策

高多理吉

(富士インターナショナルアカデミー 校長)

2023.01.30

大干ばつとの戦い

 アフリカの角と言われる地域に含まれるエチオピア,ケニア,ソマリアでは,FAO(国際連合食糧機関)は,過去40年で最悪の干ばつを経験していると警告している。農業・酪農は勿論,人間の水の供給もままならぬ状況になっている。ことに内戦によって治安の悪化したソマリアは世界の最貧国として苦難が極限に達している。

 こうした状況を救う手立てが世界各国に委ねられているなかで,2022年11月20日,エジプトのシャルムエルシェイクで国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)が開催され,締約国会議は「損失損害基金」を設立し,資金運用するという決定がなされた。

 グテーレス国連事務総長はこの決定に関し,「世界は依然として気候変動への野心に大きな飛躍を必要としており,私たちは私たちの人生のためにこの戦いに勝たなければなりません」と述べている。

 干ばつは,アフリカだけにとどまらず,世界の大きな問題として浮上している。干ばつと無関係な国はないといってよく,間接的影響も含めれば,全世界のいかなる国も,干ばつと戦わなければならない状況となっている。

技術開発で見えてきた光明

 福岡市は,1978年に大渇水を経験し,極端な少雨によるカラ梅雨で,時間制限による給水が287日間におよんだため,渇水への対応として,海水淡水化施設整備事業に着手した。

 取水施設には,新技術の[浸透取水方式]を採用して海底に埋設した取水管から海水を取り入れ,UF膜ろ過装置などを通って淡水化プラントへ運ばれた海水が真水へと淡水化されると,近傍に建設された混合施設で生産水となって導水され,ミネラルを含んだ通常の水道水と混合された後,各家庭へ配水される。一日の生産量は最大五万立方メートルで,国内最大の淡水化施設である。

 こうした海水淡水化技術をさらにレベルアップしようとする研究開発がなされているが,東京大学は,2022年5月,同大学院工学系研究グループが,内壁をフッ素で覆ったナノチューブを開発し,現在有力視されている「アクアポリン」方式の4500倍の水透過性能があることが判明した。

 これを,海に接しているソマリア,ケニアに応用したらどうかということが頭に浮かぶが,問題は電力である。

 アメリカ合衆国エネルギー省が管轄する国立研究所・サンディア国立研究所とテキサス工科大学が共同開発した「屋上風力発電」は,巨大なプロペラを必要とせず,レーシングカーのウィングのような空気力学を利用してとらえた気流を増幅してエネルギーを生み出すという方式で,静かで,野鳥を巻き込んで殺傷する心配もなく,スペースがソーラーパネルの10分の1である。さらに,同じ創設コストで,太陽光発電の50%多くのエネルギーを生じさせる能力を持ち,曇り,雨天でも,風があれば,エネルギーを生じさせる画期的な発明である。

 こうした新技術に対して,冒頭に述べた国連気候変動枠組条約第27回締約国会議が提案した資金運用をつぎ込み,成功例を作ることが肝要と思われる。

 アフリカ諸国の問題ではなく,いずれは我が身という思いを世界各国が持ち,成功例があれば,国際的な資金援助のみならず,国家財政をつぎ込む事例が次々と出てくるだろう。

 さらに,水を含んだ土地に植林をして,内陸に森林を延長していけば,大森林地帯が生まれ,樹木が蒸発させる水分で自然に雲が発生し,雨が降るという好循環も期待できる。ミネラルは,現地で調達可能である。

 筆者が「もったいない」で有名なノーベル平和賞受賞者のワンガリー・マータイ氏(2011年没)と大学構内の桜並木を歩きながら話した際の,彼女の言葉「最初は,一人から始めたらいいのよ。」の言葉が耳に残っているが,彼女が一人で始めた植林事業に,協力者が次々と増え,3000万本の森林にまで成長した事実は重いものがある。

 この意味で,日米共同チームでもよい,新技術で大干ばつに挑戦し,多くの民を救う成功例を作れば,その波動効果は大きい。国際機関の支援だけでなく,日米政府も,財政支援を惜しむべきではない。

 ただ,当該国の平和が困難な前提として否定できないのが,最も残念なことであるが,可能性は常に念頭に置いておくべきだろう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2829.html)

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