世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2797
世界経済評論IMPACT No.2797

世界的な投資動向と実需原則の提言

真田幸光

(愛知淑徳大学ビジネス学部ビジネス研究科 教授)

2022.12.19

 米中覇権争いの拡大に伴う,サプライチェーン再構築の動きや,ロシアのウクライナ侵攻に伴う,エネルギー,原材料,資源の確保の動き,そして,米国金利の上昇と相対的な米ドル高傾向が未だに見られる中「世界の投資家の動き」にも変化が見られていると言えよう。

 例えば,米国が提唱しているIPEFの動きを受けて,「各種業界の核心技術を伴う投資については,IPEF加盟国,就中,米国への投資をするような暗黙の圧力が働き始めている」と見られる。また,米国は,「米ドル高を利用した海外投資の拡大にも積極的になっている」とも言えよう。

 そして,実体経済を軸としている国家であるところの中国本土は,実体経済に必要な資源,エネルギーの安定確保に向けて,社会主義国家らしく,国家レベルで,外交戦略も絡めつつ,「これまでの一帯一路構想でアプローチしてきた国々に加えて,新たに,海洋資源の豊富な南太平洋諸国やベネズエラ,コロンビア,ペルー,チリなどへのアプローチと経済的投資の拡大を模索,検討,そして実行中である」と見られる。

 そして,米ドルの反対側で起こっている,「相対的な円安」は高度な技術やノウハウ,のれんを持つ日本企業を安値で買収するチャンスとなっているとも言え,米国はもとより,中国本土や韓国,タイなどからも投資の関心が示されるようになってきている。

 また,投資先としては,日本だけでなく,やはり通貨・ウォンが基軸通貨・米ドルに対して相対的に弱くなっている韓国に対しても,外国人投資家の関心は高まっているようで,韓国株式市場では電池・半導体銘柄を中心に株式が大量に買われている。

 韓国国内では,「米中対立の激化で恩恵を受けると期待される業種を中心に外国人の買い攻勢が集中している」との見方がなされているが,そうした経済的メリット共に,投資家には,「高度な技術を持つ韓国企業が中国本土に買収されないかを警戒している」という側面も否めまない。

 更に,習近平国家主席による異例の三期目突入を受けて,外国人投資家は中国本土株式市場を離れ,日本や韓国,台湾の株式市場にシフトしてくる可能性も高まる可能性もある。

 外国人投資家のこうした動きを引き続きフォローしたい。

 こうした中,一言,申し上げておきたい。

 筆者は,2008年の洞爺湖サミット時に,当時の福田康夫政権に対して,「洞爺湖サミットで実需原則の必要性を世界に訴え,実需原則の世界的なルールと組織作りをして戴きたい」とお願いし,今も継続して,永田町には申し入れをしている。

 特に,昨今の,「悪いインフレ」の最大の背景は,2008年に発生したリーマンショック以降,世界の主要各国政府が自国の経済危機を克服する為に,財政出動を伴う景気対策を打った,しかし残念ながら,主要各国は当時,既に財政赤字の状態にあった為,各国政府は国債などを通じて,借金をして資金調達,それを国家の危機克服に繋げてきた,こうした背景が現行の世界金融経済の背景にある,その上に,2020年から拡大している新型コロナウイルス感染に対応する為に更に財政出動を行ったが故に,現在の金融市場には,実体経済が必要とする資金を大きく上回る資金が存在,フローで見た通貨供給量が過剰に存在するという状況,即ち,所謂,バブル経済の状況となっている,そして,この過剰な余剰資金が,「投機性の資金」となり,私たち庶民が必要なモノやサービスに対しても大量になだれ込み,これこそが,「悪い物価上昇の遠因となっている」と考えられることを我々は忘れてはならないのである。

 世界の基軸通貨を発行している米国の金融当局は,一気には出来ないが,徐々に金融引き締めを実施,通貨供給の引き締め,バブルの調整を少しずつ始めてはいるが,それでは,物価の上昇を簡単には抑えきれず,その間に泣くのは弱者,即ち,一般庶民となってしまう。

 そこで,根本的に行わなくてはならないのが,「世界の人々誰もが生きていく為に必要なモノやサービス,即ち,水,穀物などの主要な食糧,鉄鉱石やマグネシウム,ボーキサイト,リンなどといった主要な原材料,そして化石エネルギーなどの主要なエネルギー,更に,物流サービスに対しては,“絶対に投機性の資金を背景とした投資をしてはならない。実需で売買すべきである”」との提言を行った上で,その世界的な詳細ルールとその監視組織の構築,更には違反した際の厳格なる罰則規定を作り,私たちが生きていく為に必要なモノやサービスの価格が投機によって高騰しないような仕組みを作っていくべきである。

 さもないと,世界の多くの一般庶民は,悪いインフレによって死すか,国によっては,その前に大きな暴動が起き,社会混乱が発生する可能性があると筆者は考えている。

 「世界的な実需原則の提言」筆者は,岸田政権には是非,世界に対して,是非この「実需原則」を訴えて戴きたいと考えている。

 そして,こうして日本が世界平和を願って提言すれば,世界の日本に対する意識は,より「尊敬の念」に変わってくるのではないか。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2797.html)

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