世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2750
世界経済評論IMPACT No.2750

東ティモールのASEAN加盟と今後の課題

川島 哲

(金沢星稜大学経済学部 教授)

2022.11.14

 ASEAN(東南アジア諸国連合)は,2022年11月11日ASEANへの加盟を申請していた東ティモールについて加盟を認めることで原則合意したと発表した(ASEAN事務局HP)。実現すれば1999年のカンボジア以来の加盟国となり,ASEANは11か国体制になる。

 日本経済新聞社の入手したASEAN首脳会談議長声明案によれば「2025年に正式加盟となることを期待」としている(『日本経済新聞』2022年11月12日)。東ティモールは,ポルトガルの植民地であったが,ポルトガルが1974年に政権交代により植民地政策を変更し,翌1975年11月に独立派(フレテリン等)が独立を宣言したが,インドネシア軍が侵攻し制圧された(外務省HP)。当時のインドネシアはスハルト政権下にあり民主化運動は抑圧されていたため東ティモールは独立運動が制限され,1998年スハルト政権崩壊後のハビビ政権による東ティモール独立政策の転換を受けて,1999年の独立を問う住民投票実施後に国連東ティモール暫定行政機構(UNTAET)のサポートを得て3年後の2002年に独立を果たし今年(2022年)で独立20年となった。人口およそ130万の東ティモールは国民のおよそ3割が貧困層とされ,雇用の創出などが長年の課題である。本稿では東ティモールと日本の現在の関係などを中心に記していく。

 2022年9月28日に行われた日・東ティモール外相会談によれば,林外務大臣から「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)実現のため,インフラ協力による連結性向上や海上保安能力強化等の分野で具体的な協力を着実に実施していきたい旨が述べられ,両大臣はこれらの分野での協力を引き続き強化していくことを再確認した。さらに,林大臣から,東ティモールの人材育成分野の支援を始めとする各種協力を強化していきたい旨述べられた(外務省HP(2022年9月28日))。

 では具体的に日本はODAなどでいかに人材育成の支援を行ってきたのか。外務省HPによれば,日本のODAプロジェクト(無償資金協力案件)において,人材育成奨学計画として2020年度に東ティモールの指導者となることが期待される若手行政官等8名が,日本国内の大学院において学位(修士)を取得することを支援している。将来東ティモールの各分野での開発課題の解決に貢献することに加え,我が国と東ティモールの二国間関係の強化を目的としている。それに加えて,同年度の経済社会開発計画では,東ティモールに対し保健・医療関連資機材を供与することで,東ティモールの保健・医療体制の強化を図り,もって社会の安定化を通じた同国の経済社会開発に寄与することが期待されている。

 世界銀行のWorld Bank national accounts data, and OECD National Accounts data files によれば,東ティモールの1人当たりGNIは2002年に750US$から2021年に1,940US$となっている(「最もGNIが高かったのは2011年の3,730US$)。世界銀行によれば,実質GDP成長率(資源収入を除く)は2011年に14.7%であったが,2020年はマイナス8.6%,2021年は1.6%(見込み)である。ラモス=ホルタ大統領もマスコミなどの取材で語っているが,雇用の創出が大きな課題であり,ASEANをはじめ世界から投資を呼び込むためのひとつとしてASEAN加盟を目指してきたといわれている。主要産業は農業で,輸出用作物としては特にコーヒーがあり,石油・天然ガスの開発が貴重な国家財源となっており,この現状からの脱却を目指している。日本をはじめASEANはいかに東ティモールへの支援をし,上述の林外相の発言のように「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)実現のため,インフラ協力による連結性向上や海上保安能力強化等の分野で具体的な協力をしていくのか。世界は日本のアクションをみている。今後も注視していきたい。

[参考文献]
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2750.html)

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