世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2744
世界経済評論IMPACT No.2744

世界のエネルギー安全保障の危機と課題

武石礼司

(東京国際大学 特命教授)

2022.11.14

 世界のエネルギー需給において,波乱要因が次々と訪れている。コロナの蔓延に続いて,2022年2月にはロシア軍がウクライナに侵攻した。コロナもウクライナ戦争も,いずれも世界の政治情勢とビジネス環境を,大きく変える予想外の出来事であった。世界経済に対して負の影響を与えるとともに,各国経済の悪化と停滞,成長率の大幅な低下がもたらされた。

 しかも世界は,2016年のパリ協定の発効にともない,CO2排出量の削減を求める動きがますます強まっており,化石燃料である石油・ガス・石炭の消費量にも削減が促される動きが生じている。化石燃料の生産者は,投資を控えるか,あるいは事業をたたむ,または,稼げるうちに稼ごうとOPECおよびロシア等の産油国が集まった「OPECプラス」では,高い油価を求めた減産合意が続けて行われてきた。

 一方,再生可能エネルギーによる世界の電力供給量(太陽光,風力など再生可能エネルギーの合計,2021年データ)を見ると,世界の総発電量に占める比率は14%程度であり,水力の15%よりも少ない。再生可能エネルギーは,世界全体として見れば未だ導入の初期段階の状態にあり,主力電源とはなっていない。

 他方,化石燃料による発電が占める比率は世界の電力供給の6割をまかなっており,ウクライナ戦争によりロシアからのガス供給が減少した欧州諸国において,エネルギー供給危機が生じたのはこうした世界の需給関係を考えれば不可避の現象であったことがわかる。

 化石燃料の生産者側が将来に不安を感じ,一方再生可能エネルギーの増大も簡単には進まない状況では,エネルギー需給をつかさどる世界のマーケットは,機能の不全,価格の過度の乱高下などが簡単に生じることになる。

 さらに日本の状況を考えると,ウクライナの状況に匹敵するほど極めて切迫した安全保障の危機が出現していると言わざるを得ない。

 日本は,ロシアによる北方領土の占拠,韓国による竹島の占拠,さらに中国による尖閣諸島海域へのほぼ常駐とも言える艦船の侵入を受けている。また,北朝鮮による度重なるミサイル発射が行われており,多数を発射することで打ち上げの練度が上がることは,着弾の危険性が高まることを意味している。

 しかも,エネルギー供給の面から日本の状況を見ると,輸入エネルギーへの依存度は高く,ほぼ全量が輸入である化石燃料への依存度は,総エネルギー消費量で見て65%,発電量に占める化石燃料のシェアも65%となっている(2021年データ)。

 日本において最大の危機は隣国の中国にある。今年の共産党第20回大会において,習近平国家主席が3期目に入るにあたり,歴史的任務として,あらゆる手段を尽くして台湾を併合すると述べており,しかも,その際に武力を排除しないとしている。これは,次の党大会の2027年までに必ず台湾を占拠するとの宣言となっており,台湾有事は日本有事という緊急事態が間近に来ていることを意味する。その際には,尖閣諸島をはじめとして,沖縄が危機にさらされることになり,「観光立国,インバウンド,全国割りなどで経済回復」などと言っている場合ではなく,安閑としている時間がない状況が間近に迫っている。

 しかも,近隣国は,ロシア,北朝鮮,中国の3カ国がともに核を保有しており,特に直近の北朝鮮の振る舞いは,世界の核不拡散体制の崩壊を生じさせるものである。その上,ウクライナでのロシアによる戦術核使用の可能性が言われるほど,世界の安全保障環境は悪化している。国連の常任理事国であるにもかかわらず,隣国のウクライナに軍隊を送り攻め込んだロシアと,日本は隣国である点をより突き詰めて考える必要がある。

 また尖閣諸島を核心的利益と呼んでいる中国も隣国であり,日本は,当然,安全保障確保のためには,最大限・最速での防衛力強化が必要となっている。

 2022年11月6日~18日まで,エジプトでCOP27(国連気候変動枠組条約締約国会議)が開催されたが,CO2削減や,再生可能エネルギー導入,2030年目標,2050年目標などの達成よりも,より重要な課題が日本に降りかかっていることを自覚する必要がある。

 防衛力強化,エネルギーと食糧の確保政策,それに国民の安全確保,例えば八重山諸島などからの民間人の避難体制の整備,防衛関連法規の迅速な整備,セキュリティ・クリアランスなど情報セキュリティ制度の確立,中国進出日本企業の国内回帰の支援など,必須の施策を(増税などせずに)早急に進める必要が生じている。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2744.html)

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