世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2703
世界経済評論IMPACT No.2703

需要面から見た半導体産業サプライチェーン

朝元照雄

(九州産業大学 名誉教授)

2022.10.10

 前掲の拙稿「半導体産業サプライチェーンの解明:供給面からの考察」に続き,需要面から半導体産業サプライチェーンを考察する。

非メモリーとメモリー半導体

 2021年の売上高について,IDM企業は3,660億ドル,ファブレスは1,900億ドル(ファブレスは半導体の設計を担当するが,ブランド企業であり,ファウンドリーに半導体の製造とOSATに封止めを発注する。そのため,ファウンドリーの1,090億ドル,OSATの400億ドルと残りの410億ドルはファブレスの純付加価値)を足すと市場需要は5560億ドルになる。非メモリー半導体はロジック半導体,マイクロプロセッサ,アナログ半導体などが含まれ,メモリー半導体はDRAM(記憶保持動作を必要とするメモリー),NAND型フラッシュメモリー(不揮発性記憶素子のフラッシュメモリー),SRAM(スタティック(静的)な回路方式により情報を記憶するメモリー)などが含まれている。半導体ビジネスのうち,非メモリー半導体は約3分の2,メモリー半導体は約3分の1の売上高を占めている。

 メモリー半導体は,「メモリー=記憶する」装置である。パソコンの場合,ソフトやワードで書いた文書を記憶するのがこのICチップの役割である。この分野において韓国・サムスン電子,LG電子,SKハイニックスやアメリカのマイクロン・テクノロジなどは,DRAMやNAND型フラッシュメモリーなどで寡占の状態を保っている。

 また,原料別半導体の角度から見ると,1950~60年代にゲルマニウム(Ge)を原料とする半導体であったが,発熱制御が困難で,のちには淘汰された。Geに置き換わったものが,以下の原料である。

 ①第1種半導体:シリコン(Si)を原料とするもの。メモリー(DRAM,NANDフラッシュメモリー),ロジック(演算処理)のASIC(特殊用途IC),SoC(システムLSI)で使用され,スマートフォン,タブレット端末,ノートパソコン(NB)など限られたスペースでシリコンが広範囲で使用される。代表的な企業は,サムスン,TSMC(台湾積体電路製造),インテルなどである。

 ②第2種半導体:ヒ化ガリウム(GaAs)やリン化インジウム(InP)を原料とする半導体である。特に,高周波数,高効率,低電力消耗,WiFi通信,基地局などで使用される。この第2種半導体の代表は,STマイクロン,TI(テキサスインスツルメンツ),台・穩懋半導體(WIN)などである。WINは“第2種半導体のTSMC”とも呼ばれ,受託製造分野で大きな市場シェアを持っている。

 ③第3種半導体:シリコンカーバイド(SiC,炭化ケイ素),窒化ガリウム(GaN)を原料とする半導体。PMIC(パワー半導体)とは,パワーマネージメントICで複数の電源レールおよびパワーマネージメント機能をシングルチップに内蔵した集積回路である。化合物半導体材料の窒化ガリウムと炭化ケイ素を「第3類半導体」と呼ばれた(中国は「第3代半導体」を呼んだが,これは誤った表現であり,第1~3種半導体はそれぞれ異なった特徴と用途を持っている)。電力管理集積回路は,電力管理用の集積回路であり,携帯電話やポータブルメディアプレーヤーなどのバッテリー駆動デバイスに含まれることがある。

 特に,パワー半導体が代表であり,電気自動車(EV)などの高周波,高圧,高温,高効率,大電流に使用される。この種の代表は,①インフィニオン(Infineon,独),②オンセミ(米),③STマイクロン(スイス),④三菱電機,⑤富士電機,⑥東芝,⑦ビジェイ・インターテクノロジー(米),⑧NXPセミコンタクタズ(蘭),⑨ルネサス,⑩ロームである。今後,車載半導体として伸びる領域であり,トップ10社のうち,日系企業は5社と,今後の成長が期待できる分野である。

半導体流通専門商社

 製造された半導体は,約65%がIDMやファブレスから大口ユーザーに直接的に供給され,残りの35%は半導体専門商社を通じてユーザーに供給される。

 大口ユーザーとは,アップル,Dell,HP(ヒューレットパッカード)やファブレスのクアルコム,ブロードコム,NVIDIA,メディアテック(聯発科技),AMDなどで,これらがIDMのインテル,サムスン電子,TIやファウンドリーのTSMC,UMC(聯華電子),グローバルファウンドリーズ(GF)などに半導体チップを発注する。その後,製造されたチップや電子部品は,EMS(電子製造サービス)企業の鴻海(ホンハイ),広達(クアンタ),仁寶(コンパル),緯創,英業達(インペンテック),和碩(ペガトロン)などに供給され,パソコン,スマートフォンなどが製造・組立される。

 他方,少量で多種の半導体・電子部品の需要は,半導体専門商社を通じて,ファブレスに発注される。2017年の世界半導体専門商社の売上高ランキングは,①大聯大(WPG,台),②アロー(Arrow Microelectronics,米),③アヴネット(Avnet,米),④文曄科技(WT Microelectronics,台),⑤豊田通商(日),⑥マクニカー・富士エレホールディングス(2022年8月,マクニカホールディングスに変更,日),⑦フューチャー(Future Electronics,加),⑧至上電子(Supreme Electronics,台),⑨益登科技(Edom Technology,台),⑩丸文(日)である。

 世界半導体専門商社トップのWPGは,インテル,マイクロン,サムスン電子,エレクトロニック,クアルコム,TI,NXPセミコンダクターズ,東芝,メディアテック,インフィニオン,STマイクロエレクトロニクス,オン・セミコンダクター,AMD,マイクロチップ・テクノロジーズなど著名な半導体の大型企業300社から調達している。

 これらの商社は製品の推進,在庫管理,受注管理,販売管理,運営管理,財務管理,情報管理などの業務を担当し,数十万種類の半導体・電子部品を代理している。また,ユーザーの資金力が不足の場合,融資業務も行っている。

半導体の需要側市場

 前述のとおり,IDM企業の3,660億ドル,ファブレス(ファウンドリーとOSATを含む)は1,900億ドルを足すと,市場需要は5,560億ドルに達する。それを半導体市場の需要側に提供し,パソコン関連は約38%,スマートフォンなどのモバイル通信関連は約34%,家電関連の消費電子は約9%,自動車(EV)関連は約9%,工業用コンピューター・国防関連は約10%が使用される。今後,EVや自動運転の需要が大幅に増えると予測することができる。

[参考文献]
  • 朝元照雄『台湾の経済発展』勁草書房,2011年,第1章「産業の高度化と技術のインキュベーター:工業技術研究院の役割」,第2章「新竹科学工業園区と産業集積」,第3章「半導体産業の形成と発展」,第5章「ノートパソコン産業における台湾企業の役割」。
  • 朝元照雄『台湾の企業戦略』勁草書房,2014年,第1章「台湾積体電路製造(TSMC)の企業戦略」,第2章「聯発科技(メディアテック)の企業戦略」,第5章「華碩電脳(エイスーステック)の企業戦略」。
  • 朝元照雄『発展する台湾企業』勁草書房,2018年,第4章「日月光(ASE)の企業戦略」。
  • 朝元照雄『台湾企業の発展戦略』勁草書房,2016年,第4章「宏碁(エイサー)」。
  • 朝元照雄・中原裕美子編著『台湾の企業研究』九州産業大学産業経営研究所研究叢書7,九州大学出版会,2020年,第5章「大聯大(WPG)のビジネス戦略」(朝元照雄執筆)。
  • 朝元照雄「半導体産業サプライチェーンの解明:供給面からの考察」世界経済評論Impact No.2699,2022年10月3日。
  • 朝元照雄「解析・半導体産業ビジネス」世界経済評論Impact No.2161,2021年5月24日。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2703.html)

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