世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2664
世界経済評論IMPACT No.2664

「アベノミクス国家破産」とはなにか?:公共財の崩壊によって起こる恐ろしい結末

紀国正典

(高知大学 名誉教授)

2022.09.05

 「アベノミクス」という言葉は,政治家である安倍晋三氏の単なるキャッチフレーズ(宣伝文句)に過ぎない。これは軽い乗りの造語にしか過ぎなかったのである。

 ところが,「アベノミクス」を掲げた第2次安倍政権は,実に7年8ヵ月も継続することになった。もっとも安倍氏は,2020年8月28日,体調不良を名目の理由にして突然の辞意表明となった。「桜を見る会」の不祥事(スキャンダル)での検察の捜査を恐れてのことだというのが多くの見方である。彼の尊敬する祖父で首相を務めた岸信介氏は,いつも刑務所の塀の上を歩いているが,落ちるときはいつも塀の外に落ちたと評されていたが,その血は受けついでいるようである。異例なほどスキャンダルの多い政治家であった。「アベノミクス」は,それを継承するとして発足した菅政権もふくめると,9年間近くも継続した。2021年発足の岸田政権のもとでも,安倍氏は自民党最大派閥を結成しその影響力を拡大したので,隠れ「アベノミクス」として進行していたのである。安倍氏は,2022年5月28日,「日銀は政府の子会社である」と発言し,彼が長年推し進めた財政と金融の癒着合体を無責任にも礼賛した。それ以降,20年ぶりの急激な円安が進行した。このままいくと,円の投げ売りからハイパー・インフレーションが起こることは必須であった。

 ところが安倍氏は,選挙遊説中の2022年7月8日に,悪質宗教団体である世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に深く関与していたことによる銃撃で亡くなった。彼はこの統一教会に長年かかわり,会合に頻繁に出向き,選挙の足として利用していたのである。始まりは,祖父の岸信介氏が統一教会の前身の勝共連合と関係をもったことだった。親子三代にわたって,悪質宗教団体と癒着を深めていたのである。この事件をきっかけに,自民党議員の多くが,安倍派を中心にして,統一教会と関わっていたことが報道されるようになった。第2次岸田政権は,統一教会と手を切ると宣言しておきながら,高市早苗大臣は統一教会の機関誌で対談していたり,山際大臣は統一教会の国際会議に出席していたり,荻生田自民党政調会長は家族同然のつきあいと教会から称賛されていた。自民党政権全体が,悪質宗教活動を支援し,日本での違法な献金活動にお墨付きを与えていたのである。

 安倍氏の死去によって,アベノミクスの影響力は低減するかもしれない。しかし,アベノミクスを信奉し積極財政を主張する人たちの影響力はいまだに強大である。またアベノミクスの残した負の遺産は,容易に処理できないほど巨大なものであり,「アベノミクス国家破産」の恐れがなくなったわけではない。

 「アベノミクス国家破産」とは,「アベノミクス」というキャッチフレーズによって,国家破産つまり国家的規模での破産が引き起こされる現象のことを表したものである。これは,次の三つの分野で発生する。第1に金融・財政分野における国家破産である貨幣破産・財政破産であるが,これを定義すると,「誤った貨幣数量説を巧妙に利用して,財政と金融を隠ぺい型に癒着合体させ,これによって歯止めなき無責任金融と無責任財政を押し進め,貨幣破産と財政破産を引き起こすことになる亡国政策」となる。これは確実に,ハイパー・インフレーションを発生させる。第2に,エネルギー破産であるが,これは安倍政権が原子力と石炭火力に依存し,再生可能エネルギーの開発を推進してこなかったことに起因する。すでに電力不足が生じ,岸田政権は危険な老朽原発を稼働させようとしている。第3に,気候変動対応破産であるが,安倍政権が洪水や食糧不足などの気候変動災害に対して抜本的な対策を講じなくて放置し,無策であったことによって発生する。

 金融・財政,エネルギー,地球環境というのは,いずれもきわめて高度な公共財である。これが崩壊するのであるから,これから発生するであろう被害や損害は広範囲にわたり,甚大なものになる。安倍晋三という政治家が,取り返しのつかない大罪を犯したことが,ますます明らかになるであろう。岸田政権は,すでに財政が破たん状況であるのに,巨額の金をかけて国葬を進めようとしているが,それはとんでもない歴史的な誤りなのである。

(詳しくは,紀国正典「アベノミクス国家破産(1)―貨幣破産・財政破産―」高知大学経済学会『高知論叢』第122号,2022年3月参照。この論文は,金融の公共性研究所サイトの「国家破産とインフレーション」のページからダウンロードできる)。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2664.html)

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