世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
ウクライナ戦が強める中国のロシアとの枢軸
(日本国際フォーラム 上席研究員)
2022.08.29
ウクライナ侵攻の中国への衝撃・混迷
習総書記が,2月24日以降のロシアのウクライナ侵攻の状況をどの様に予測したかは不明だが,侵攻後の中国のウクライナ戦への態度は混迷していた。3月3日の国連特別総会のロシア非難決議は,賛成141,反対5,棄権35とロシアに厳しい状況だった。新疆,香港,台湾問題を抱え,日ごろから領土の不可侵,内政不干渉,主権尊重を唱えてきた中国は,非難決議に棄権をして,NATO拡大を非難するのが手一杯だった。初戦におけるロシア軍のキエフ攻略の失敗の状況に,中国国内ではロシアとの断絶論も出るほどであった。
近年,中国とロシアは対米関係をめぐり,接近を強めてきた。2022年2月の北京オリンピック開催へのプーチン大統領の出席は,西側の要人欠席の中での,両国の良好な関係を誇示できた。2月4日の中露共同声明は,米国は衰退過程にある,中露の政治体制は西側に優位だと誇り,中露の限りのない友好だとたたえたが,ウクライナ侵攻は,中国にとって中露枢軸がコストだと感じた局面があったことは否めない。
中露枢軸再強化の流れ
4月7日の国連人権委員会からのロシアの除名決議には,賛成93に対し,反対24,棄権58,未投票18の合計は賛成を上回った。中国の反対のほか,インド,インドネシア,ブラジル,南アフリカなど,アフリカ,アジア,中東諸国の棄権が多かった。ロシアをめぐる国際情勢の変化だが,中国は,再び枢軸強化に動き,6月15日の中露首脳会談では核心利益の相互支持,経済と軍事の協力とともに,NATOのアジア拡張への対抗を表明した。
かかる流れの背景として,第1に,ロシア軍は,当初の失敗から,軍事力を再編し,東部での攻勢を強め成功し,米国や欧州の援助にかかわらず,互角以上の戦いをしている。
第2に,西側の大規模な制裁に対するロシアの強靭性が示された。①食料・エネルギーの基本資源を自給の上,②石油・天然ガスをインドなど中立国に供給するのみならず,③欧州諸国にカードとして使い,制裁の効果を分断し,効果的である。④その結果,ドルに対し各国通貨が下落するなか,ルーブルのみがドルに上昇する,強い通貨になっている。
第3に,中露が,影響力を枢軸として行使する有効性は,上記国連決議に示されるが,6月23日BRICs 5か国にアルゼンチン,インドネシア,ナイジェリアなど9か国を加えた拡大会議を開いた。さらに,上海条約機構の活動強化による中露の影響力拡大をねらっている。
中国にとっての中露枢軸の有効性
中国の枢軸再強化には以下の理由がある。第1は,対米・西側民主主義に対する権威主義の主張である。冷戦終了後の米一強体制は,歴史の終わりとして民主主義国の増加があったが,30年後の今日,民主主義国は減少し,権威主義の増加がみられる。
第2に,改めて,中国は,ロシアとの補完関係に利益を見出していよう。①食料・エネルギー大国・ロシアと工業大国・中国は,強い補完関係にあり,中国も制裁への耐久力を増加できる。②軍事技術,核大国ロシアの存在も,対米対抗に必須のものである。③今回の金融制裁の中,中国はロシアと人民元で決済し,中国版SWIFTのCIPSを活性化できた。
第3に,中露は国連安保理の一員としての協力は有効である。中国は,最近,外交姿勢としてGlobal South を動員するGlobal Security Initiative(GSI)を唱道しているが,中露枢軸は,上記,拡大BRICs,上海条約機構など,広く途上国を動員する上で有効である。
第4に,ウクライナ戦突発後,台湾情勢が緊迫しているが,ペロシ米下院議長の訪台を中国は米国の挑発と取っている。中国にとって,アジアでの米国との対峙の上で,後背にあるロシアの協調は欠かせないが,特に,台湾事態への対応には,ロシアとの協調が必須である。
習3選と中露枢軸
習総書記の現下の最大の関心事は,第20回党大会における3選である。中国の国内状況は,相次ぐコロナ発症へのゼロ隔離政策,不動産業不況,地方経済の不振など,政策の不備による政策不況への不満が強い。相次ぐ金融緩和で対応しているが,十分ではない。さらに,相次ぐ洪水のほか,異常熱波の到来は,電力不足,農業凶作のみでなく,社会不安をも巻き起こす,楽観を許さない状況である。それだけに,対外政策での失敗は許されない。
ロシアは当面は,西側の制裁に強靭性を示すが中期的な国力低下は必須であろう。ロシアが,弟分となる中露枢軸をどのように受け止めるかは不明だが,中国は,中露枢軸を保持し,インド,イラン,トルコ,など途上国へ影響を高めるGSIを追求する。さらに,アジアで中国の覇権を追求し,台湾解放を進める上で,中露枢軸強化は不可欠となっている。
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