世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
中国―過剰貯蓄・過剰投資モデルの混迷と対外スタンス
(日本国際フォーラム 上席研究員)
2024.04.01
過剰貯蓄・過剰投資成長モデルの行き詰まり
中国は,長年にわたり,GDP5割の高貯蓄・高投資により,高度成長を続けてきたが,投資効率減少に伴い,債務累積の結果,資産デフレとなり,現状は成長モデル行き詰まりの状況にある。
21世紀WTO加盟後の中国は外資を含む投資急増で,10%強の高度成長を続け,世界の工場となり,輸出もNo1となったが,GDP5割の貯蓄が投資を賄った。しかし,2010年代に入ると成長減速の中,貯蓄余剰が金融不安を誘発したが,中国政府は住宅を含むインフラ投資拡大で乗り切った。しかし,2020年のコロナは中国に大打撃を与え,21年から不動産業は不況となった。
現在,中国政府は消費不振の中,インフラ投資で景気を支えているが,投資効率はさらに低下し,債務累積の一因となっている。インフラ投資は,高速鉄道が典型だが,北京―上海路線は優良路線だが,投資を重ねると不良事業しか残らず,赤字路線を生み出し,債務を累積する。高速道路,空港も同じである。
住宅は長い間,値上がりする良好資産であり,老後の保障でもあり,複数の住宅保有が普及した。全国の住宅が人口を大きく超える規模(30億人可能)となったところで,バブルがはじけ,不動産業を資産デフレに追い込んだが,中国経済3割の不動産業不況の影響は大きく,広範である。
今後の3つのシナリオと長期停滞
今後の対策・シナリオとして,中国政府の,IMFなどが示唆する悪化シナリオ,現在の投資主導から消費主導への転換シナリオが考えられるが,いずれも経済の長期停滞可能性を示す。
第1は,第14期全人代で,李強総理が,GDP成長率を5%,都市部新規就労1200万人などの目標の下での対応である。3重点リスクの不動産業,地方債務,中小金融機関への対応は,倒産はできるだけ避け,金融的に対応する。特別国債一兆元発行によるインフラ投資,EVや太陽光・風力などの新エネルギ―の産業投資で景気を刺激する戦略である。但し,投資効率はさらに低下し,債務を金融でつなぐのは,矛盾を将来に持ち越し,経済停滞長期の可能性が高い。
第2に,重点リスクのさらなる混迷である。まず,中国の慣行として,住宅購入者は,ローンを組み,契約時に住宅価格の過半を支払うが,資金繰りに困った建設業者には住宅完成の意欲が欠如し,IMFは未完成住宅が,69億平方m(約7千万戸)あるという。購入者は住宅未入手でローンは支払う事態に社会不満が累積する。家計は貯蓄を急増させ,消費は盛り上がらない。
また,不動産不況は,歳入3割を土地使用料に頼る地方財政を悪化させ,さらに種々の事業を代行させた地方融資平台の債務も急拡大し,地方公務員給与の遅配・欠配のみならず金融機関の債務の不履行なども生じている。
以上の結果は金融にしわが寄る。恒大集団,碧佳園など開発会社の内外負債は膨大であり,中国の金融機関への影響は甚大である。現在のところ,人民銀行の支援もあり,大手金融機関は対応可能のようであるが,一部,中小金融機関が危機となり,預金引き出しを拒む状況も発生し,これも社会不安の元となる。
第3のシナリオとして,IMFのいうように消費誘導の成長モデルへの転換を図るのが王道であろう。それには,社会保障,医療の大幅拡充を含む財政出動により経済構造転換となるが,大規模変化であるゆえに,一時的には成長鈍化を含む,中長期の過程となろう。
経済停滞の中国と台湾問題
これまで,中国との付き合いは,中国が政治・経済大国として,その強い経済力を武器に強制外交を進めるため,多くの国は脅威を感じてきた。しかし,こんご経済が混迷し,それが長期に続くとなると,中国との付き合いはどうなるか。対外的にも混迷するのか,激しくなるのか?
バイデン大統領は,2023年8月,中国は,成長が失速し,失業が増加し,時限爆弾を抱えるとし,国内の矛盾が高まれば海外に強硬に出る可能性を指摘した。14期全人代報告は,2027年の人民解放軍創設100年に向け,24年も7.2%増の軍事費を確保すると表明し,台湾に関しては外部からの干渉を排し,統一の大事業を達成すると,強い態度であり,今後が注目される。
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坂本正弘
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