世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
逆回転加速する中国不動産:ゼロコロナでは説明できない経済失速
(亜細亜大学アジア研究所 教授)
2022.07.25
中国の今年4~6月期の国内総生産(GDP)は前年同期比0.4%増(実質)にとどまった。新型コロナウイルスの感染封じ込めを最優先する「ゼロコロナ」政策で経済活動が滞ったため,というのが大方の分析である。たしかに経済都市・上海のロックダウン(都市封鎖)など徹底した対策が採られたことにより,予想外の減速となってしまったのは事実だろう。上半期でも同2.5%増と,年間目標の5.5%前後達成は厳しい状況だ。
ならば,感染状況が収束すれば中国経済は再び急回復するのだろうか。それを占う材料の一つが不動産関連指標である。上半期の不動産開発投資(金額)は前年同期比5.4%減だが,新規着工面積は同34.4%減,商品住宅の販売額は同31.8%減と惨憺たる有様なのである。厳格な行動制限によって住宅建設,販売面に影響が及んだことは間違いないが,果たして一過性の現象と楽観してよいのだろうか。
過去10年余り,中国の不動産政策は「限購令」と呼ばれるように,購入軒数の制限や転売規制,頭金の割合調整等によって投機抑制を図る手法だった。不動産は現実に最も高い収益が見込まれる投資対象だったのだからそれも致し方ない。2016年に習近平主席が「住宅は住むもので投機に用いるものではない(房子是用来住的,不是用来炒的) 」と述べ,これを実需一本に戻す方向性を示していた。
2020年後半,新型コロナ対策での金融緩和を受けて住宅市場が活況を呈し始める中,政府は不動産デベロッパーに「三条紅線(3つのレッドライン)」を設定,金融機関には不動産融資比率に上限を設けるなど健全化に向けて動き出す。しかし,2021年後半,不動産最大手の恒大集団の資金繰り難が表面化し,他のデベロッパーも脆弱な財務基盤が明るみに出る。
その後は不動産市況が軟化する中,値崩れを起こさないで早期の在庫圧縮を図ろうとデベロッパーや各地方が懸命になるがすでに潮目は変わった。そんな中で起きたのが住宅ローンの集団支払い拒否騒動である。中国のネットメディアによれば,6月30日に江西省景徳鎮で物件購入者(約900人)が発出した声明文がネット上に公開され,その後同様の騒動が7月17日時点で約91都市の少なくとも301案件に広がっているという。
発端となった江西省の騒動は恒大集団が手掛ける物件で,昨年5月以降工事がストップしており,今年10月までに工事を再開しなければローンの支払いを止めると買主が集団で宣言したものだ。各地で発生した未完成物件のローン返済拒否宣言は恒大案件が最も多いが,新力,奥園,世茂など信用不安を起こしているデベロッパーの名前が並ぶ。
これまでのところ,不払いの連鎖に伴う銀行経営,金融システムへのダメージは軽微であり,ローン返済拒否という購入者の主張が法的に受け入れられる可能性も低いが,騒動が拡大することで,地元政府が個々の案件について建設再開(物件の引き渡し)に向けた何らかの解決策を用意しなければならなくなるだろう。
中国の不動産は関連産業も含めれば GDPの20~30%に及ぶ巨大セクターと言われている。さらに土地使用権の売却収入や不動産関連税収は地方財政にも大きく影響する。また家計の保有する最大の資産が値下がりすれば当然,逆資産効果として消費の委縮をもたらす。中国では物件完成前に支払いを始めるのが普通だが,いつ引き渡されるか分からないのが現状である。すでに異常なほど高騰した住宅価格は収入比や国際比較で考えでも上昇余地は限られる。
こうした状況を考えれば,コロナの収束が不動産市況の回復に結び付くとは考えられない。過去20年右肩上がりだった不動産が逆回転を始めているのである。景気の低迷は長期化するのではないか。
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