世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2528
世界経済評論IMPACT No.2528

米・超党派国会議員使節団6名の台湾訪問

朝元照雄

(九州産業大学 名誉教授)

2022.05.09

超党派国会議員の訪台

 米国上院予算委員会共和党のリンゼー・グラム(Lindsey Graham, R-SC)ら上院と下院6名の議員の使節団が,4月14日に台湾を訪問した。

 今回の使節団の特徴は,上院・下院の超党派メンバーで,シニア重量級議員でかつ,台湾に関する友好法案を議会で推進する「台湾を重要視する議員」で構成されている点である。この使節団はオーストラリア,台湾,日本の順で訪問した。ロシアのウクライナ侵攻で国際情勢が緊張している時の訪台は,改めて中国に対し米国の台湾支持をアピールすることになった。

使節団のメンバー

 使節団は団長に上院予算委員会会長のリンゼー・グラム共和党議員が就き,メンバーに上院外交委員会会長のロバート・メネンデス(Bob Menendez, D-NJ)民主党議員,上院厚生・衛生,教育・年金委員会会長のリチャード・バー(Richard Burr, R-NC)共和党議員,上院国土安全委員会会長のロブ・ポートマン(Robert Portman ,R-OH)共和党議員,ベン・サス(Ben Sasse, R-NE)共和党議員および下院ロニー・ジャクソン(Ronny Jackson)共和党議員が参加した。

 リンゼー・グラムは,2016年に共和党から米国大統領予備選挙に出馬した共和党リーダー格のベテランで,上院で大きな影響力を持っている。上院のリンゼー・グラム,ロバート・メネンデス,リチャード・バーと下院のロニー・ジャクソンは「上院台湾コーカス(Senate Taiwan Caucus)」(米台関係の改善に専念する議員の組織で,現在,33人が参加)と「議会台湾コーカス(Congressional Taiwan Caucus)」(229人の議員を擁する米国議会で最大の議会組織)のメンバーである。

 これまでにリンゼー・グラム,ロブ・ポートマン,ベン・サスなど50名の上院議員は,ロバート・ライトハイザー通商代表(当時)に連名の書簡を提出(2020年),米台相互貿易協定(BTA)の締結を要請した。また,リンゼー・グラム,ベン・サスなど42名の上院議員は連名で,キャサリン・タイ通商代表に,米台の「貿易及び投資枠組み協定(TIFA)」協議の再開,米台経済貿易関係の強化推進を要請する書簡を提出した(2021年)。また,2022年3月には,ロニー・ジャクソンら「議会台湾コーカス」議員200名の連名書簡で,「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」に台湾を含めるように要請している。

 また使節団メンバーは,米国の台湾関連友好法案推進にも貢献している。2019年に,リンゼー・グラムとロバート・メネンデスはアジア再保証推進法(Asia Reassurance Initiative Act)の共同提案者である。この法令は米国が台湾に対し軍備・武器の供与を含む安全保障を再確認するものである。また,台湾旅行法(Taiwan Travel Act)を根拠に,米国の多くのシニア官僚の訪台を奨励した。ロバート・メネンデスは,「台湾同盟国国際保護および強化イニシアチブ法(略称:台北法:Taiwan Allies International Protection and Enhancement Initiative (TAIPEI) Act of 2019 (TAIPEI Act))などの署名者でもある。

蔡英文総統との会見

 蔡英文総統は,15日午前中,総統府で使節団メンバーを接見した。

 蔡総統は,使節団の訪台を歓迎し,台湾に対する支持に感謝した。「台湾は米国にとってインド太平洋地域で最も堅実なパートナーであり,新しいインド太平洋戦略の中で積極的に役割を果たすだろう。台湾は米国と同じ民主主義国家と連携し,インド太平洋地域の平和と安定を共に維持する」と述べた。また,「この数年間,台米は“グローバル協力訓練枠組み(GCTF)”および“インド太平洋民主的ガバナンス協議(U.S.-Taiwan Consultations on Democratic Governance)”を通じて,民主主義とガバナンスおよび人権の強化を推進してきた」,「民主主義国家が同盟関係で強く結びつき,中央集権国家による平和に対する脅威を共同で防御する」と述べた。また蔡総統は,「1979年4月10日の“台湾関係法”制定から43年の今年,使節団が訪台したことはに特に意義深く,台米交流の持続的深化を通じより多くの成果を構築したい」との意向を示した。

 蔡総統は,リンゼー・グラムが過去20数年にわたり台米間の経済貿易関係の強化,台湾の国際機関への加盟を支持するなど,米国議会で台湾支持を訴える重要な友人であるとも述べた。

 これに対し,リンゼー・グラムは,使節団の訪台の目的を「台湾支持をアピールし,日増しに強まる中国の台湾に対する圧力に,如何に対応するかを考えることだ」,「台湾を放棄することは自由民主を放棄することであり,自由貿易を放棄することだ」と述べた。一方,ロバート・メネンデスは,「使節団メンバーの事務室には中国から訪台に関する抗議の書簡が送られて来たが,私たちは畏縮せずに,台湾を固く支持する」と強調した。

 またメネンデスは,「現在の米中対立は,どちらか一方の国を選択することではなく,選挙,信仰,情報の選択など,自らの意思で自由に差配し,選ぶことができ,また自らの知恵と工夫で経済を推進することが出来る世界を選ぶか,まったくそうでない世界を選ぶかという問題だ。台湾は前者を選ぶことだろう。我々が訪台し,台湾を支持する理由はそこである」と語った。

記者会見

 15日の午後に開催された記者会見会では「台湾有事の場合,米国は軍隊を派遣するのか」と質問が出た。これに対しリンゼー・グラムは,「どのような選択も可能である。米国は強い軍隊を擁し,世界の自由と民主主義を守り,インド太平洋地域の盟友を保護するだろう。米国は中国との衝突を求めないが,民主主義を守るためには戦う。中国は賢い選択をするべきだ(Choose wisely!)」とズバリ答えた。

 また,グラムは「20世紀に我々が学んだ教訓は,善が悪に駆逐された場合,悪の欲望は際限がないことだ。米国民にとって,台湾は盟友であり,万一,米国が台湾への支持を放棄した場合,世界は根本的に悪い方向へと変化するだろう。そして,米国はすべての盟友を失い,全世界の法治国家は武力を行使する不法国家に負けることを意味している。そんなことは絶対にあってはならない」と述べた。

 先月,ロバート・メネンデスが上院財政委員会の公聴会でタイ通商代表に台湾を「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」に加えるよう呼び掛けたが,明確な返事はなかった。ロブ・ポートマンは記者会見で,「台湾をIPEFに加え,米台間に自由貿易協定(FTA)を締結することが最も重要である」。「現在,台湾駐米国代表所はTECRO(駐米国台北経済文化代表処)であり,“台湾”という名称を使うべきである」。「米国議会で関連法案の審査が進行中であり,最終的には上院,下院のコンセンサスが必要だが,メネンデスは「是非とも通過させたい」と希望を述べた。

 リンゼー・グラムは,「ポートマンの呼びかけで,既に43名の上院議員から米台FTA支持の署名を得た。今後,署名する議員は増えるだろう。現在,米国の与野党を問わず,台湾支持はいまだかつてなく高まっている」と指摘した。

 ポンペオ前国務長官による「外交上の台湾承認」の呼びかけについて,記者の質問にリンゼー・グラムは,「今般の使節団は,与野党同じく台湾支持の考えである。ロシアのウクライナ侵攻により,米国は邪悪政権を阻止することのへの意識が高まった」と強調した。

[参考文献]
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2528.html)

関連記事

朝元照雄

最新のコラム