世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2487
世界経済評論IMPACT No.2487

メタナショナル戦略からの新たな展開はあるか?:ウクライナ侵攻とコロナ禍

村中 均

(常磐大学 教授)

2022.04.04

 21世紀に入り,ICT革命を意味する,デジタル化(全ての事象を,0と1の数値に置換し,デジタル情報にする)によるソフトウェア化(財にデジタル情報のソフトウェアが介在),モジュール化(構成要素単位のコンポーネント化),ネットワーク化(相互接続)を背景に(根来龍之『プラットフォームの教科書』日経BP社,2017年),企業の国際化は,グローバルな企業内外のネットワークの中で自社をどのように位置付けるかに焦点が当てられるようになった。このことを企業の国際化戦略という観点で捉えてみると,国境と企業の境界を越えて優位性を確保するメタナショナル戦略のことといえよう。企業の国際化戦略の進展を振り返ってみると,インターナショナル戦略,マルチナショナル戦略,グローバル戦略,トランスナショナル戦略,メタナショナル戦略という段階進展があった。

 現代の企業の戦略を考える場合,補完財のレイヤー構造と直接財のバリューチェーンから成るビジネス・エコシステムの視点が重要となっている。ビジネス・エコシステムとは,簡潔に説明すれば「プラットフォーム」を核とした相互依存性の高いネットワークのことであり,GAFAM(Google,Apple,Facebook,Amazon,Microsoft)がプラットフォームの代表例である。メタナショナル戦略とは,グローバル・ビジネス・エコシステムの構築と同義であり,21世紀の企業国際化の戦略的課題となっている。

 さて,マクロな視点で捉えると,本稿で呼ぶグローバル・ビジネス・エコシステムを,トーマス・フリードマンは,「フラット化する世界」といい,各国の相互依存性が高く,そういった世界では戦争は起きにくいと論じた(Friedman, T. L., The World Is Flat: A Brief History of the Twenty-First Century, Farrar Straus and Giroux, 2005)。ロシアによるウクライナ侵攻はそういった状況の中で行った。

 侵攻後,欧米諸国を中心に,ロシアに対して金融・経済制裁が行われ,ESG(環境・社会・企業統治)を重視しグローバル・ビジネス・エコシステムを構成する企業が,ロシア事業の停止や撤退を行ったことで,グローバル・ビジネス・エコシステムからロシアを離脱させることにつながった。さらに,ロシアは,ICT,具体的にはインターネットからの遮断(情報統制)を選択し,自ら,孤立化を図っていった。そして,ロシアのドル建て国債のデフォルト懸念やルーブル安に伴うインフレーションが生じた。ロシアの国内経済に与えたダメージは非常に大きく,もちろん,このことが世界各国の経済に波及していったことはいうまでもないが,今後もそういった状況は長期化していくことが予想されている。

 逆にウクライナ側からは,グローバル・ビジネス・エコシステムを構成する国々に対して,SNSを通じて戦争の様子等様々な情報(真偽不明なものもある)が公開・発信され,インフルエンサーによる反戦の訴えも大きく影響し,ウクライナに対する共感を呼び,様々な支援へとつながっていった。我々が相互接続している世界で生きていることを改めて強く認識することができたといえよう。

 相互依存性が高く,相互接続された世界で,自国さらに自社の位置付けをいかに捉えるのかということが改めて問われている。近年の状況,新型コロナウイルス感染症の世界的流行による各国の工場の一時的操業停止や各国の入国制限の強化,そして戦争の影響によるカントリーリスクの上昇により,21世紀に入り比較的容易に越えることが可能であった「国境」というものを再考しなければならない重大な岐路に立っている。また,新型コロナウイルス感染症の流行拡大で一気に普及したテレワークによって,人々の拠点性や働き方も変化し,「企業」について再考できる状況にある。企業の国際化の戦略的課題を再考し,新たな企業国際化のモデルが必要な状況にあるということなのであろうか?

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2487.html)

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