世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
共有・評価経済社会の行動戦略
(常磐大学 教授)
2024.08.12
ICT(情報通信技術)の進展を背景に,通常の情報そのものだけでなく,人やモノに付随する情報をデジタルデータとして扱えることが可能となり,情報の限界費用はほぼゼロとなった。1単位追加生産する費用がほぼゼロであり,価格が無料になると同時にインターネット上に大量の情報が流れ,共有型の経済という側面が表出する(ジェレミー・リフキン『限界費用ゼロ社会』(柴田裕之訳)NHK出版,2015年)。また情報の共有によって,人やモノのトレーサビリティ(追跡可能性)が高まり,社会はオープンなものとなり,それらに対する評価が重要となり,評価型の経済という側面が表出する(岡田斗司夫 FREEex『評価経済社会』ロケット,2013年)。共有型の経済と評価型の経済は連動したものであり,21世紀に入ってこれらの特徴は顕在化してきており,共有・評価経済社会に突入しているといえよう。
本稿では,この共有・評価経済社会の特徴を簡潔に整理した上で,人はどのような行動をとるべきか,その方向性について説明を行いたい。
共有型の経済においては,所有だけでなく利用が鍵となる。近年,一定期間の利用の権利に料金の支払いを行うサブスクリプションや貸し借りを行うシェアリングが興隆している。さらに情報が結合することでより大きな価値を生むネットワーク経済の効果が働き,逆説的ではあるが,情報を独占し自社のビジネスに活用する,GAFAMと呼ばれる巨大プラットフォーマー企業も少数存在している。
評価型の経済においては,評価によって信頼性を高めることになる。大量の情報が流れる状況では,その情報の信頼性が希少となり,評価システムによって担保する必要性が生じる(ただし,偽情報であれば信頼性そのものが疑問となるし,プラットフォーマーによる恣意的な評価の形成の可能性はありえる)。楽天市場,メルカリ,食べログ等で評価システムは導入されており,評価が高いか否かが,売上等に影響する。また,情報は光速で拡散され瞬時に共有されるが,評価によって信頼を得るのは時間がかかる。
共有・評価経済社会において,人にとって重要なのは,例えばSNS上の「いいひと戦略」と呼ばれる,①フォローする→②共感し,“いいね”や“リポスト”を行う→③具体的に褒める→④助ける(例えば,SNSに助けたことを書き込む)→⑤何かを教えるというように自らより能動的な行動をとり時間をかけて評価を上げていくことである(岡田斗司夫 FREEex『「いいひと」戦略』ロケット,2014年)。この場合の能動的な行動とは他者に貢献する意図すなわち利他性を持つものである。つまり戦略的に自らの振る舞いに共有性を持たせ,さらに評価による信頼を得られるように行動する必要があるのだ。共有・評価経済社会とは,他者に貢献し,他者から報いられる社会といえる(國領二郎『サイバー文明論』日本経済新聞出版,2022年)。
現在ではマッチングコストや(オンライン会議によって)Face to Faceコストが低下し,タスク(業務)のフラグメンテーション(分散)が起き,人単位の分業が可能で(リチャード・ボールドウィン『世界経済大いなる収斂』(遠藤真美訳)日本経済新聞出版社,2018年),日本においても,労働市場の流動性は高まりつつあり人手不足が深刻化しつつある状況であり,より良い人材確保のため,その人の信頼性というのが益々重視されることになろう(現在,人材のリスキリングに注目が集まっているが,評価のための職業能力の可視化や相互レビュー等の整備が課題となる)。
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