世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3730
世界経済評論IMPACT No.3730

取引とビジネスモデル

村中 均

(常磐大学 教授)

2025.02.17

 ビジネスモデルという考え方が定着したのは21世紀に入ってからであろう。現在,製品やサービス(これらを商品とも呼ぶ)そのものというよりは,それらを生み出し提供する仕組み,さらにいえば利益を生み出す仕組みのビジネスモデルに注目が集まるようになっている。例えば,優れた商品を持つユニクロやワークマンさらにアイリスオーヤマといった日本を代表する企業であっても,ビジネスモデルの視点から優れた点が語られる場合が多い。本稿ではビジネスモデルのパターンについて,取引さらに経済原理といった観点から分析する。

 ビジネスモデルの根源は,企業から製品やサービスが顧客へ提供され,顧客から企業へ支払いが行われること,すなわち取引である。取引は,プレーヤー,カネ,モノの3つの要素から構成される。プレーヤーは顧客と自社を含め顧客の購入に関わる企業,カネはプレーヤー間でのカネの動き,モノはプレーヤー間でカネの対価として提供される製品やサービスである。企業の視点からは,これら3つの要素は,「誰に」「何を」「どのように」提供するかを考慮する必要がある。

 ここでビジネスモデルをパターン化するために,取引を(1)「方法」と(2)「プロセス」の2つの軸で捉える(本稿のビジネスモデルのパターン化は,『週刊東洋経済』2024年2月24日号,36-82頁を参考にしている)。取引の方法(横軸とする)とは,企業の視点からの提供の方法のことで,これは,単一の製品やサービスを提供する(a)単体,需要と供給を一致させる(b)引き合わせ,複数の製品やサービスを提供する(c)組み合わせの3つに分類でき,取引のプロセス(縦軸とする)とは,企業の視点からの提供の流れのことで,これは,直接提供する(d)直接,継続的に提供する(e)継続,3者間市場を形成する(f)媒介の3つに分類できる。これら,取引の方法(横軸)の3つの分類,取引のプロセス(縦軸)の3つの分類から,ビジネスモデルを9つにパターン化できる。具体的には以下の通りである。

  • ①単体・直接の「製造販売モデル」(魅力ある商品を製造し販売する。例として自動車,衣料)。
  • ②引き合わせ・直接の「流通モデル」(商品を仕入れて販売する。例として商社,百貨店)。
  • ③組み合わせ・直接の「合算モデル」(目玉商品で誘引し,ついで買いやまとめ買いで稼ぐ。例としてスーパーマーケット,ドラッグストア)。
  • ④単体・継続の「継続モデル」(定期的な商品購入。例として新聞,フランチャイズ)。
  • ⑤引き合わせ・継続の「フリーミアムモデル」(無料版を提供し,さらに有料版を提供。例としてAdobe Acrobat)。
  • ⑥組み合わせ・継続の「設置ベースモデル」(ベースとなる製品やサービスを導入してもらい,メンテナンスや消耗品で稼ぐ。例としてプリンター)。
  • ⑦単体・媒介の「広告モデル」(製品やサービスは無料とし,広告料を得る。例として民放テレビ)。
  • ⑧引き合わせ・媒介の「マッチングモデル」(製品やサービスの提供者と利用者を仲介し,手数料を得る。例として人材紹介)。
  • ⑨組み合わせ・媒介の「補完財プラットフォームモデル」(補完財の製品やサービスの提供があることで自社の製品やサービスの価値を向上させる。例としてゲーム機とソフト,PCやスマホのOSとアプリ)。

 それではこれら9つのパターンの中で,どれが一番大きな利益(指標例は営業利益率)を生み出すであろうか? この分析の際には,ビジネスモデルを稼働させ利益を生み出す基本的な経済原理で考えることが肝要であり,それは,「規模の経済」,「範囲の経済」,「ネットワークの経済」である。規模の経済は,単位当たりコストが,生産量が拡大するにつれて低下していくことである。範囲の経済は,共通性のあるところで製品やサービスを組み合わせ,より高い価値が生み出されたり,それらを独立させた場合よりコストが低下することである。ネットワークの経済は,大きなネットワークであればあるほど(利用者数が多いほど)価値が大きくなることである。規模の経済の効果は,上記の①,②,③,④,⑤,⑥,⑦,⑧,⑨の全てに関わり,範囲の経済の効果は,特に③,⑥,⑨に関わり,そしてネットワークの経済の効果は,特に⑦,⑧,⑨に関わる。複数の経済原理が効いているビジネスモデルは,コスト低下や売上増加につながり利益が大きくなる可能性は高くなり,このように考えると,規模の経済,範囲の経済,ネットワークの経済を享受できる⑨補完財プラットフォームモデルが最も大きな利益を生み出す可能性が高いことが分かる。

 上記の9つのパターンは非常に単純に捉えたもので,現実は,9つのパターンの中から複数組み合わせ,それに伴い複数の経済原理が効いている場合が多い。重要なのは,ビジネスモデルは手段であり,自社はどのパターンにするのかどのパターンであるのか,どの経済原理が効いているのかを意識し,そして理解しビジネスを実行していくことである。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3730.html)

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