世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2466
世界経済評論IMPACT No.2466

台湾の福島など5県産食品の輸入解禁:CPTPP加盟申請

朝元照雄

(九州産業大学 名誉教授)

2022.03.21

(1)福島など5県産食品の輸入規制緩和

 2022年2月21日,台湾衛生福利部食品薬物管理署は,東日本大震災による福島第1原子力発電所の事故以降,福島,栃木,群馬,茨城,千葉の5県産食品に行っていた輸入規制の緩和措置を発表・実施した。5県産の食品について,野生鳥獣肉,キノコ類,コシアブラを除き,放射性物質検査報告書と産地証明書の添付を条件に輸入を可能にする(規制緩和の概要については農林水産省ウェブサイト「台湾による日本産食品の輸出に係る原発関連の規制について」参照)。

 台湾が解禁に踏み切った背景には,日本国内で国際基準以上に厳格な管理システムが採用されていること,環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP,いわゆるTPP11)加盟国を含む40カ国超が輸入を再開していること,台湾のCPTPP加盟を申請にあたり,貿易に関する規制を低減させることが適切と判断したことがある。

 2月10日,安倍晋三元首相は安倍派会合で,福島県など5県産の食品に対する輸入規制の緩和に関し,蔡英文総統から電話連絡があったことを明らかにした。安倍氏は「蔡総統に感謝を申し上げるとともに,(台湾が)CPTPPの加盟に向けて大きなハードルを越えられた」と語った。

(2)台湾民意の変化

 福島など5県産の食品の解除について,台湾の現地のアンケート調査から民意の推移を知ることができる。

 「福島など5県産の食品の解除」について,2016年11月20日時点の調査によると,(1)大いに賛成3%,(2)賛成10%,(3)賛成しない26%,(4)全く賛成しない47%,(5)意見がない14%である。(1)大いに賛成と(2)賛成を足すと13%,(3)賛成しないと(4)全く賛成しないを足すと73%である。明らかにこの時期の台湾の民意は賛成しないが賛成を大きく凌駕していた。

 ところが,2022年2月11日時点の調査によると,(1)大いに賛成11%,(2)賛成31%,(3)賛成しない18%,(4)全く賛成しない27%,(5)意見がない12%に大きく変わった。(1)大いに賛成と(2)賛成を足すと44%,(3)賛成しないと(4)全く賛成しないを足すと45%である。賛成が賛成しないと拮抗し,(1)と(2)が31%も大きく増加し,逆に(3)と(4)が28%減少した。

 台湾の民意を大きく変化させたのは,日本政府から大量のアストラゼネカ(AZ)製のワクチンが提供されたことや,台湾有事が発生した場合,日米が台湾を支援することを表明したことに対する感謝の気持の現れであると考えられる。これ位の僅差であれば,蔡英文総統も賛成しないとする意見を押し戻すことができた。

(3)「4大公民投票」による台湾住民の大局的判断

 去る2021年12月18日,台湾では「4大公民投票」が実施された。

 これは野党の国民党と環境保護活動家による提案が採択されたもので,①第4原子力発電所の再開,②飼料添加物のラクトパミン(肥育促進剤)使用米国産豚肉の輸入禁止,③公民投票と選挙の同日実施,④液化天然ガス(LNG)受け入れ基地の移転(付近に藻礁が繁殖)が台湾住民に問うものである。

 民進党の蔡英文政権の基本的な方針はすべてが「ノー」(不支持)であり,投票の結果はいずれも不支持が支持に上回った。

  • ①第4原子力発電所の再開:不支持426万2451票,支持380万4755票。
  • ②飼料添加物のラクトパミン(肥育促進剤)使用の米国産豚肉の輸入禁止:不支持413万1203票,支持393万6554票。
  • ③公民投票と選挙の同日実施:不支持412万38票,支持395万1882票。
  • ④液化天然ガス(LNG)受け入れ基地の移転(付近に藻礁が繁殖):不支持416万3464票,支持390万1171票。

 紙幅の関係で,①,③と④について論じないが,②「飼料添加物のラクトパミン(肥育促進剤)使用米国産豚肉の輸入禁止」の不支持とは,米国産豚肉の輸入解禁を意味している。野党の国民党の言い分は「ラクトパミン(肥育促進剤)使用の米国産豚肉」は健康に良くないため輸入禁止を主張した。しかし,ラクトパミンの含有量が安全範囲内にコントロールしているため,既にアメリカでは食用され,日本など多くの国が輸入を認めている。

 米国在台湾協会(AIT)のサンドラ・オウドカーク代表(大使に相当)は,自分と自分の子供は今まで米国産豚肉を食べているが,健康には支障がでていないと「不支持」(輸入の解禁)を呼び掛けていた。また,台湾では「ラクトパミン使用米国産牛肉」の輸入が認めている。事実上,反対しているのは一部の養豚関係業者であり,安い米国産豚肉の輸入による打撃を心配しているのが,これが本当の反対の理由であろう。食品の安全への考慮よりも排他的なエコイムズによるものであると考えられる。このようなエコイムズで輸入の禁止を訴えるようでは台湾有事の際,アメリカは台湾を助けてくれないのではないかと考える人々が,多勢に立つようになった。

 米国産豚肉の輸入解禁によって,当然,台湾がCPTPPに加盟したい場合,福島など5県産食品の輸入解禁も同じ脈絡で動くようになった。米国産豚肉と福島など5県産食品の輸入解禁によって日米が台湾に対する懸案事項をクリアーすることができた。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2466.html)

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