世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
動き出したEUのインド太平洋協力戦略:初めて,台湾との関係強化を明記
(駿河台大学 名誉教授)
2022.02.07
中国が政治や軍事の両面で東・南シナ海での威嚇を強めている。昨今,日本や他のアジア・太平洋地域・諸国での中国に対する警戒感が急速に高まっている。特に,台湾海峡で有事があれば,当該地域での貿易や金融など経済面にも大きな混乱を齎すだろう。
地政学的に遠隔地である欧州においても近年,新疆ウイグル自治区の人権侵害や香港民主派抑圧,台湾などの問題で強権主義的な中国の動向に無関心ではいられず,具体的な行動をとるべきだとするEU(欧州連合)の欧州議会や加盟国の声が強まっている。ただ,中国との経済・貿易に傾斜した関係が密な加盟国の中には,中国との有事に巻き込まれるべきではないと慎重な外交方針をとる国もある。特に,昨年12月まで16年間首相の座に就いてきたドイツのアンゲラ・メルケル氏は,これらの問題について戦略的沈黙を続けたて来たことは周知の事実である。
リトアニア政府は昨年11月,首都ビリニュスに大使館に相当する代表機関「(台北表記ではなく)台湾代表処」を開設した。また,中国の猛反発にもかかわらず,欧州議員やリトアニア,チェコ,スロバキアなどの議員団が訪台を繰り返し祭英文(ツァイ・イエウェイン)総統と会談するなど関与を強めている。
こうした情勢変化の中,ポスト・メルケルのドイツ外交でも,大きな変化の兆候が見られる。昨年12月発足した社会民主党(SPD),緑の党,自由民主党(FDP)の3党連立ショルツ政権は,民主主義や人権など欧米の「価値に基づく外交」を新機軸に掲げる。緑の党所属のアンナレーナ・ベーアボック外相は「価値の外交」を前面に打ち出している。ドイツは中国に対する姿勢を徐々に硬化させている。
EUは「蜜月」が目立った対中姿勢を「対抗」へと転換させた。欧州議会は,人権問題を巡って中国との制裁合戦を繰り広げ,2020年12月に中国との間で大筋合意した投資協定の批准手続きを一時的に凍結した。さらに,本年2月開催の北京冬季五輪も加盟国に外交ボイコットを呼びかける決議を可決した。
欧州委員会は昨年9月,初の「インド太平洋協力戦略」を策定した。EUが「一帯一路」構想の展開で欧州の安全保障や経済で脅かすまでに勢力を強めた中国に対峙するために,中国以外のアジア・太平洋地域・諸国との関係を重視し始めたとみられる。その中で,特に注目すべき動きは,台湾との関係強化を打ち出したことである。経済成長と(サプライチェーンなど)経済安全保障,地政学的などの観点から台湾の重要性は高い。EUは日本や韓国,オーストラリアなどとの連携を強めて,経済・外交政策の多角化を図ることを目指す。インド太平洋地域・諸国と価値観の共有と連携がさらに進めば,EUが英国のように,いずれTPP(環太平洋経済連携協定)加盟申請へと向かうこともあり得ないことではない。
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