世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
統計や数値を軽く見るのは国家を死滅させる
(北星学園大学 名誉教授)
2022.02.07
国家指標の代表的な数値がどういう訳か作り替えられていたのには唖然とした。第一数値で表現するものは人間世界に無限といってよい程あり,生まれてから死ぬまでの幾多の世界が数値と無関係というのは殆どない。何らかの形で数値にして生きているのが人間であり,今は直接把握できない歴史だって数値を持って解説の拠りどころにしていると言ってよいだろう。
我々のような学問の世界,それは科学の世界といってよいがその正しい発明,発見の基準は数値をベースにしている。医学は実証性に近い学問といえるが,その地道な分析,研究から生まれる数値は命に直接係わる。今のコロナ危機でも感染率や死亡率は結果として我々の耳に入ってくるのは様々な前提条件の違いは別にしても基本は数値そのものである。
私の専門とする経済学は人間の社会行動の中から経済に特化した研究を行うものであるが,現代経済学に到達する前には数字的検証は少なかった。それが急速に数値によって分析するようになったのは産業革命以降である。そして様々なこの経済学的分析は多くの物議をかもし続けてきた。例えば最初の社会主義国ロシアでは,当時のロシア経済研究所長ニコライ・コンドラチェフは1サイクル50年とみる経済サイクル論,これはのちにシュンペーターやケインズ等の大経済学者に多大の影響を与えたが,資本主義の死滅を主張するロシア政府によって極刑を受けるという悲劇となった。別の大きな例で言えば,1930年代のこのアメリカの大不況の原因は何によっているかは誰も知らなかった。アメリカ経済学史上の大家ガルブレイスですら株価の大暴落が原因であったと著書に書いている。要するに当時のアメリカには経済統計等経済分析に不可欠なものはなかったのである。基本データは,古い資料を丹念に集め分析したある種の職人クズネッツの地味な努力によるものであり,それは戦勝の勢いもあって戦後アメリカが高度な数学を使って分析する経済分析の土台につながっていくのである。
それでもリーマンショックを予測も分析もできなかったことにより,世界最高水準に上り詰めたといわれるアメリカ経済学も未熟さをさらしたのである。今アメリカでは新しい経済学と称してMMT理論やFTPL論などが注目を集めており,コロナ禍の財政赤字を巡って日本でも大きな論戦の対象にしようとする動きもある。しかし,筆者はこれらの新しいといわれる理論は貨幣論特に信用貨幣の流通に注視したもので,日本でもそれが新理論であり,財政赤字無限論などに繋がるとは到底思えない。特にポストケインジアンはケインズ同様理論から追うより,自らが実体験する中で旧来の理論や政策を驚くほど変えていく力がある。MMTもFTPLもさして目新しくもなく,高い論理性を持っているとは思わないので,現実の難しい経済問題に本当に一石を投ずる研究が進められて欲しいものである。
統計や数値の重要性をもう一度しっかり確認して勉強してもらわなければこの国は危うい。
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