世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2391
世界経済評論IMPACT No.2391

コロナ禍下の“勝ち組”:エバーグリーンの年末ボーナスは平均40カ月

朝元照雄

(九州産業大学 名誉教授)

2022.01.17

 エバーグリーン(長榮海運)は2021年の年末ボーナスを平均40カ月と発表した。2020年の実績は平均10カ月であったことから,平均10カ月とか,20カ月とかの憶測が飛んでいたが,正式発表に台湾の各業界からは羨望の眼差しを集めている。

 エバーグリーンという企業名は日本では馴染んでいないかも知れないが,台湾を代表する海運企業である。街中でも若草色の底に,白い文字で「EVER GREEN」と書いたコンテナが積まれたトラックを見ることが出来る。2021年3月23日,スエズ運河に世界最大級のコンテナ船「エバーギブン(Even Given)」が風速50km/hの強風・砂嵐によって座礁し,スエズ運河を阻いて通航ができず,世界のメディアで注目された。このエバーギブンは今治造船の子会社の正栄汽船の所有であるが,エバーグリーンが借り上げ,パナマ船籍として登録されているコンテナ船である。

 エバーグリーンの2021年第1四半期から第3四半期までの純利益は1,582.79億台湾元(約6,331億円)で,前年同期比13倍,第4四半期を加えると2,000億台湾元(約8,000億円)を超えると見られている。エバーグリーンの1株当たりの純利益も30.27台湾元の高い業績をあげている。

 なぜエバーグリーンはこれほど優れた業績を上げたのか。コロナ禍で人々は在宅勤務・テレワークでパソコン,タブレット端末やスマートフォンの需要が増え,これら電子製品の海運需要が大幅に増えたことが挙げられる。また,各国のロックダウンが解除されると,その反動による需要増が海運需要をさらに押し上げた。その後,アメリカの埠頭陸揚げで港湾労働者不足がボトルネックなり,物流に支障が生じたため,バイデン大統領は陸揚げ業務を24時間体制とするように命じた。しかし,根本的な労働者不足の問題は解消していない。そのため,約数十艘のコンテナ船が,数十日もアメリカの外海で入港の待機を余儀なくされた。これに燃料価格の値上げも加わり,海運料金は大幅に高騰した。海運会社はアメリカでコンテナを陸揚げした後,次のコンテナを積むため直ちに帰路につくようになった。このため,多くの空のコンテナがアメリカの埠頭に積み上げられ,逆に,「世界の工場」である中国側ではコンテナ不足が発生した。それがクリスマス商戦の商品不足にも大きな影響を及ぼした。当然,海運料金の高騰はエバーグリーンの業績に有利な動向である。

 エバーグリーンの強みは次のようであると見ている。⑴中国の上海,寧波,深圳塩田,山東青島,福建厦門に自社専有の埠頭を持ち,港湾から港湾,港湾から内陸都市へ細やかな輸送網とサービスチェーンによる価格競争力を有する。⑵ロサンゼルスに自社専用の埠頭があり,埠頭の空のコンテナの充満によるコンテナの陸揚げに支障を受けていない。⑶需要に応じ,絶えず新しいコンテナを発注し,輸送量を増やしている。

 入社20年超の部長クラスで,個人の業績も良好な場合,最高で82カ月,総額1,000万台湾元(約4,000万円)の年末ボーナスがもらえる。入社10年超の下級管理職の夫婦の場合,2人で計500万台湾元(約2,000万円)を受けた。一般の職員は150万~200万台湾元(約600万~800万円)のボーナスがもらえる。エバーグリーンでは純利益の0.5%を従業員に還元すると規定されていることから,このような高額のボーナスを支給できる。

 エバーグリーングループの他の企業は,事業採算制を採用しているため,年末ボーナスはこのように恵まれていない。エバー航空の場合,今回のコロナ禍をモロに受けてボーナスは平均1.5カ月,エバー航空の搭乗客の機内食を供給するエバーキッチンは僅か2万台湾元,エバー航空の整備員は僅か1万台湾元である。2020年と2021年のエバーグリーンの業績は優れているが,4,5年前では赤字経営を経験した。この平均40カ月の年末ボーナスはエバーグリーンの史上最高月数である。

 ちなみに,同業他社の陽明海運(Yang Ming)は平均8カ月,萬海海運(Wan Hai Lines)は未定(2月1日の旧暦正月の前に支給)。同じくコロナ禍に影響されず,むしろ半導体不足の恩恵を受けたファウンドリー最大手のTSMC(台湾積体電路製造)は平均150万台湾元(約600万円),ファブレス企業世界第3位のメディアテック(聯発科技)は平均200万台湾元(約800万円)とホクホクの“勝ち組”である。飲食業や旅行業などのコロナ禍の影響を大きく受けた“負け組”とは対比的結果となった。

 余談になるが,ソマリア沖で海賊に遭遇した場合,エバーグリーンはどのような対策を採るのか,船長は荒くS字型の迂回運行により大きな波を引き起こし,小さなモーターボートに搭乗した海賊を寄せ付けないようする。二等航海士は斧を持ち,海賊が投げて来たロープを切り乗船を防ぐ。

 最近,コンテナ船の荷積が多くなり,荒くS字型の迂回運行ではコンテナが海上に落下するリスクが生じてくる。そのために,フランスやアメリカの専門警備会社に委託し,ソマリア沖の海賊の出没する地域を通過する前に,最新鋭の実弾拳銃装備で武装された傭兵のような警備員が,コンテナ船に派遣され警備を行う。海賊の出没する地域を通過後,反対側から来る別のコンテナ船に再び搭乗する。なお,コンテナ船の船員は「雇用契約」によって給与が決められ,任務完成後は「契約賞金」など一時金が支払われる。既述の年末ボーナスとは異なる賃金形態である。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2391.html)

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