世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
米国の曲球に苛立つ中国
(亜細亜大学アジア研究所 教授)
2021.11.29
注目されていたバイデン大統領と習近平国家主席の米中首脳会談が11月16日に行われた。バイデン大統領と習主席の会談は,2月の春節前に初めて電話形式で行われ,9月にも電話で2回目,そして3回目の今回はオンラインでの顔合わせとなった。
習主席は2020年1月(ミャンマー)以来外国訪問はない(昨年春の日本国賓訪問予定は無期延期)。外国首脳とは2020年2月に北京でパキスタン大統領と会談したのが最後でその後はオンライン出席にシフトした。今回も10月末から11月初めにかけてのG20サミット,COP26での対面は避け,北京からオンラインでの参加だった。
米中オンライン会談は3時間半に及んだが,「具体的成果に欠ける」というのが大方の評価のようだ。以下は主に中国側の報道(『人民日報』)を9月の電話会談と比較しながら垣間見た筆者の感想である。
まず,9月の報道記事で用いられていた「坦诚(率直かつ誠意ある)」という一語が会談全体の評価から消えた。9月には習主席が発した「山重水复疑无路,柳暗花明又一村」と古詩を引用しながら双方の努力で会談にこぎつけた安堵感を示していたが,11月は全体的にぎすぎすした間合いが見て取れる。冒頭映像であった習主席からの「老朋友」という呼びかけ部分は記事にされていない。9月会談では「競争は避けられなくとも衝突は避けられる」といった希望的なニュアンスが見て取れるが,11月は中国側の原則論が延々と語られ,米国側への申し入れに近い印象である。
中国は米中会談当日,先の6中全会で採択された歴史決議全文を発表し,翌日の『人民日報』は1面赤字見出しで大々的にこれを伝えた。わざわざこの日に発表する必要のない歴史決議全文をぶつけて,米中首脳会談は1面下の扱いにしたことからも中国側の会談評価がうかがい知れるところだ。
なぜ中国側は前回と今回の間で落差が生じているのか。9月の会談から数日後,米英豪3カ国が新たな安全保障協力の枠組み「AUKUS」の創設を発表,その一環として米から豪への原子力潜水艦技術の供与方針を発表した。9月下旬には日米豪印4カ国(クアッド)首脳がホワイトハウスで初の対面会議を開いた。すなわち米中電話会談後,「345中国包囲網(AUKUS,クアッド,ファイブ・アイズ)」(香港出身の国際政治学者・林泉忠氏の命名)と呼ばれる反中包囲網が相次いで強化された。
今回の会談後には,バイデン米大統領が北京冬季五輪の「外交ボイコット」を検討していると表明。また12月9~10日にオンライン形式で開催する初の「民主主義サミット」に台湾を招くと発表した。台湾からはデジタル担当相のオードリー・タン(唐鳳)氏と駐米代表が参加するという。会談では「一つの中国政策を変える意図はない」「台湾独立を支持しない」としながら,小さな既成事実を積み重ねていく「サラミ戦術」に中国側は警戒を強める(サラミ戦術は元来南シナ海などで中国が常用する戦術)。米国側も台湾問題が中国側の急所であることを利用し,けん制していることは明白だ。
中国は米中オンライン会談後,国内では3回目となる「一帯一路」座談会,そしてASEANとオンラインの首脳会議を相次いで開催,双方の関係を「包括的戦略パートナーシップ」に格上げすると大々的に発表した。中国の規定するパートナーシップは1990年代の冷戦構造崩壊後,相手国との関係の濃淡を可視化する呼称で,格上げの時には経済協力が付随することが多い。華夷秩序を彷彿させる儀式である。
米国不在のTPPへの加入申請など,腰の定まらない米国に対して中国が攻勢の印象もあるが,中国の動きを子細に見る限り,米国から繰り出される曲球の連続に苛立ち,なりふり構わず友好関係のつなぎ留めに奔走している姿が浮かび上がってくる。習主席も台湾,五輪という失敗が許されないところだけに神経質にならざるを得ない。
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