世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2343
世界経済評論IMPACT No.2343

ASEANのインド太平洋構想(AOIP)への米国の支援

石川幸一

(亜細亜大学アジア研究所 特別研究員)

2021.11.15

 バイデン政権は自由で開かれたインド太平洋構想(FOIP)を多国間および2国間の連携で進めている。多国間連携で重視されているのはQuad(米日豪印)であり,Quad首脳会議が3月と9月に開催された。9月にはAUKUS(豪英米)という防衛協力の枠組みが創設された。多国間連携で重視されているのはASEANである。インド太平洋関連の首脳会議や外相会議では,ASEAN中心性を確認し,ASEANのインド太平洋構想である「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」への協力を打ち出すなどASEANとの連携およびASEAN支援は常に強調されている。

 AOIPへの米国の支援策は,2021年8月4日の米ASEAN外相会議でブリンケン国務長官により発表された。支援は,AOIPの協力分野である①安全なインド太平洋のための海洋協力の推進,②連結性の建設,③国連の持続的開発目標の達成,④経済協力における連携の前進を対象に全体で29のプログラムとなっている。既存のプログラムが多いが,コロナ対策,コロナからの経済回復支援,デジタル化など新しい課題にも取り組んでいる。主要なプログラムについてすでに実施されている日本のAOIP協力にもふれながら見てみよう(注1)。

(1)安全なインド太平洋のための海洋協力の推進

 AOIPでは,①海洋安全保障,②海洋に関連した経済社会開発,③海洋環境の保護,④研究開発・人材構築など4分野が対象となっている。米国の支援プログラムは,安全保障,越境犯罪,テロ対策,海洋プラスチックごみ対策など4プログラムであり,多国間協力,調査研究,人材育成(教育訓練)などを行うものである。日本のAOIPへの協力では,違法漁業対策研修,マラッカ・シンガポール海峡の航行安全対策,海洋プラスチックごみ削減対策促進支援,ASEAN地域における海洋ごみ対策の行動計画策定支援および能力構築などを行っている。

(2)連結性の構築

 AOIPは,①ASEAN連結性マスタープラン(MPAC)強化,②官民連携(PPP)推進,③IORAなどサブリージョナルな地域枠組みとのシナジー,④継ぎ目のないASEANスカイの確立,⑤人と人の連結性,⑥ASEANスマートシティネットワーク(ASCN)による都市化への対処,⑦研究開発,能力構築などの7プログラムとなっている。連結性は,①物的連結性,②制度的連結性,③人と人の連結性の3つがあるが,米国の支援は,人と人の連結性,物的連結性を中心とする12プログラムである。ASEANの学生,大学院生の米国留学を10億人の未来プログラムにより支援しており,10億人は米国とASEANの人口を合計した数であり10億人の人的交流を意味している。USAID-ASEAN地域開発協力協定2020-25では,デジタルイノベーション,継ぎ目のないロジスティクスなどでASEAN連結性マスタープランを支援している。メコン米国パートナーシップでは,越境資源管理,経済的連結性,人的資本開発,越境犯罪,非伝統的安全保障などに取り組むためにメコン地域の5か国に2009年以降43億ドルの支援を行っている。

 日本は,質の高いインフラ協力として,日ASEAN連結性イニシアティブ,アジア太平洋地域におけるインターネット通信環境整備事業への融資,日ASEAN交通連携などを実施している。また,人と人の連結性強化については,JENESYS(21世紀東アジア青少年交流プログラム),ASEAN青少年ボランティアなどを実施している。

(3)国連の持続的開発目標(SDGs)の達成

 AOIPは,①デジタル経済を活用したSDGs目標の達成,②SDGsとASEAN共同体ビジョン2025,2030年国連アジェンダなどの補完,調整,③ASEAN持続的開発研究対話センターとの協力の3分野を対象にしている。この分野の米国のAOIP協力は6プログラムである。米国ASEANスマートシティ・パートナーシップ(USASCP)はASEANスマートシティネットワークに参加する26都市との協力を行っており,水道,交通,エネルギー,衛生などの都市サービスの供給の改善,都市の課題を解決するための都市のイノベーションと研究開発の促進のために1000万ドルを20プロジェクトに投資している。

 日本は,新型コロナ対策協力としてASEAN感染症対策センター設立支援,女性低所得者へのエンパワーメントの推進などを行い,環境分野の協力としてASEAN地域における気候変動情勢報告書の作成,日ASEAN環境協力イニシアティブなど様々な協力を行っている。防災では,ASEAN防災人道支援センターを通じた協力,HA/DR(人道支援/災害救助)に関するASEAN招へいプログラムなどを行っている。

(4)経済協力における連携の前進

 AOIPはその他の協力として,①南南協力(南南三角協力を含む),②貿易円滑化と物流インフラとサービス,③デジタル経済と越境データフローの円滑化,④中小零細企業,⑤科学,技術研究開発,スマートインフラ,⑥気候変化,災害リスクマネジメント,⑦活動的高齢化とイノベーション,⑧AEC2025ブループリントとRCEPなどのFTAの実施による経済統合深化,⑨第4次産業革命に向けた準備のための協力,⑩零細中小企業を含む民間企業の地域及びグローバルなバリューチェーンへの参加という10におよぶ広範な分野を掲げている。

 米国のAOIP支援は7プログラムである。重点を置いているのはコロナの経済的影響からの回復である。USAIDのIGNITE(イノベーション,貿易,電子商取引を通じた包摂的成長)プログラムによる中小企業支援,USAID,米国税関・国境警備局,動植物検疫所によるASEANシングルウィンドウ支援,USAIDによるASEANデジタル統合指標の開発を支援,ASEAN Edge(Enhancing Development and Growth through Energy)によりASEANのエネルギー部門の市場主導型の改革支援など多様な協力を実施している。ASEANシングルウィンドウは2020年に全10か国の参加による原産地証明の電子的交換が開始されている。

 日本は,日ASEANサイバーセキュリティ能力構築センター(AJCCBC),日本とASEANスマートシティ・ネットワーク(ASCN)の連携によるASEAN地域におけるスマートシティの実現推進などを実施している。新型コロナを受けたASEAN経済強靭化では,日ASEAN経済強靭化アクションプランの策定,経済活動の維持・活性化のための緊急支援円借款,海外サプライチェーン多元化等支援事業,日ASEANアジアDX促進事業など多様な事業を実施している。

 米国はFOIPに政府をあげて(whole of the government)取り組んでおり,極めて多様なプログラムが実施されている。AOIPへの協力はその一部に過ぎない。FOIPの全体像を理解するには,QuadやAUKUSだけでなく,米国政府による多様なFOIP関連事業を見ておく必要がある。

[注]
  • (1)紙幅の都合で一部を説明している。全体については,石川幸一「米国のインド太平洋構想とASEAN支援」,亜細亜大学アジア研究所『紀要』第48号,2021年,を参照願う。
[参考文献]
  • 「世界経済評論」2021年11/12月号[特集]インド太平洋構想とQuad:安保と経済のジレンマ,Vol.65, No.6.
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2343.html)

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